「行政書士は取っても意味がない!」
「行政書士の勉強をしても時間の無駄」
そのような意見や、インターネット上の書き込み等を見聞きした人も多いでしょう。
ほとんどが明確な根拠が提示されていないものばかりですが、行政書士試験の合格を目指している受験生にとって、「自分の取り組んでいる行政書士の勉強は無駄なのだろうか」と、悩んだり不安になったりする原因になりかねません。
そこで、この記事では、
- なぜ「行政書士を取るのが時間の無駄」と言われるのか(理由)
- 実際は「時間の無駄」ではない、行政書士の資格の価値
などについて、徹底解説します。
これから行政書士試験を目指す方は、ぜひこの記事を読んで悩みを解消し、モチベーションを維持して欲しいと思います。
行政書士の資格取得が時間の無駄と言われる理由
まず、「行政書士の資格を取るのは、時間の無駄」と言われる理由を挙げていきます。
ただ、ここで紹介する「時間の無駄と考える理由」というのは、行政書士の資格に対して否定的な意見を持つ方の主観であり、決して全てが論理的に納得の行くものばかりではありません。
なかには、正しい認識ではないと思われる理由もありますので、その都度コメントしたいと思います。
難易度が低く、誰でも取れる資格だから
「行政書士は難易度が低く、誰にでも取れる資格なので価値が低い。取るだけ時間の無駄」
このように言われることがあります。
確かに、難関国家資格と言われる「弁護士」「公認会計士」「司法書士」「税理士」などは、試験合格までに3000時間以上の勉強が必要で、一般には働きながら取得するのは無理、と言われています。
最低でも3年以上勉強に専念して、やっと合格できるかどうか、という難しさなのであり、その価値が大きいのは明らかです。
一方、行政書士は試験合格まで必要な時間は600~800時間。確かに、先の難関国家資格よりは難易度が低いかも知れません。
とはいえ、600時間としても1日3時間勉強して6ヶ月以上かかる計算となります。また、行政書士は「働きながら目指せる資格としては最難関」とも言われており、決して簡単に合格できる資格ではありません。
そもそも1日3時間の学習を半年継続できる時点で、勉強の習慣が定着していない人には無理ですし、「誰にでも取れる」という表現(認識)は、誇張しすぎであると言えるでしょう。
公務員の場合、無試験で行政書士になれるルートがある
ただし、公務員の場合、行政事務に20年従事するなどの条件を充たした際、無試験で行政書士になることができます。
このことを指して、「誰でも行政書士になれる」と揶揄される場合もあります。
独立型の資格であり、就職で役に立たないから
確かに、行政書士は独立型の資格です。
同じ士業でも、社労士の場合は「勤務社労士」という登録の種類があり、自らの勤務先の企業内で社労士資格を活かす道があります。
しかし、行政書士には「勤務行政書士」という登録の形態はありませんし、勤務先で資格を活かすことはできません。
そのため、行政書士事務所や他の士業事務所などを除き、行政書士の資格所有者を求人している企業は極めて少ないのは事実です。
とはいえ、行政書士資格を活用できなくともも、法務部や総務部など、法律に詳しい人材がアピールできる部署は存在します。
そうした点については、改めて後述します。
試験の出題分野と実務の乖離が大きく、廃業も多い
簿記やFP(ファイナンシャルプランナー)などの資格(検定)は、経理職や金融・保険業界など、特定の職種や業種において即戦力になる内容が出題されます。つまり、学習内容が実務に直結しているのです。
一方、行政書士試験では行政法や民法などの法律知識が出題されますが、それらの学習は資格取得後の実務とは直結していません。
行政書士は「行政に提出する書類」「権利義務や事実関係に関する書類」などの作成代行を行いますが、そのような業務の実務は合格後に改めて覚えていくしかないのです。
また、廃業率が高いことも事実。
少し古いデータになりますが、「月刊 日本行政」(日本行政書士会連合発行)によれば、2012年3月~2013年2月までに開業した行政書士は1,113人。
一方、同時期に廃業した行政書士は1,447人とのことで、決して少なくない数の行政書士が辞めているのが分かります。
事務処理はAIに置き換えられやすい
2015年12月、野村総合研究所およびオックスフォード大学から「AIによる代替可能性の高い職業」という研究結果が共同発表されました。
そのなかには、以下のとおり、各士業がAIに代替される可能性が記されています。
- 行政書士: 93.10%
- 税理士: 92.50%
- 公認会計士: 85.90%
- 社会保険労務士: 79.70%
- 司法書士: 78.00%
- 弁護士: 1.40%
- 中小企業診断士: 0.20%
ちょっと行政書士受験生の方には衝撃的なデータかも知れません。定型的な書類作成の代行は、まさにAIの得意とするところですし、上記データを見る限り、行政書士の仕事は現状の7%も残らない、ということになります。
しかし一方で、このデータを鵜呑みにするのも危険です。行政書士には単純な書類作成だけでなく、経営者等と対面し、相手の話を聞きながら意見をまとめたり、最適な解決案を提示したりするコンサルティング能力が求められることも多くあります。
むしろ、今後はそうしたコンサルティング能力に優れた行政書士が活躍する時代が来るでしょう。
ということで、結論としては、AIは確かに脅威だが、AIが担えないコンサルティングなどのヒューマンスキル系では、まだまだ活躍の余地がある、ということになるでしょう。
時間の無駄ではない、本当は役立つ資格
前項では、「行政書士の資格を取るのは、時間の無駄」と言われる理由を確認しました。
一言でいえば、玉石混合。頷ける理由もあれば、支持できない理由もありました。
「時間の無駄」という意見に対して、肯定せざるを得ない部分があったのは事実です。
しかし、行政書士資格は、使い方次第では大きく役立つ、価値のある資格です。
以下、行政書士が役立つ資格である理由を見ていきましょう。
社会に貢献できる業務である
特定の資格保有者しか行うことができない業務を「独占業務」といいます。
行政書士にも独占業務があり、その内容は行政書士法第一条に定められており、具体的には以下のとおり。
- 官公署に提出する許認可申請の作成や手続きの代理
- 事実証明の契約書の作成や手続きの代理
- 権利義務の書類の作成や手続きの代理
少し補足すると、まず、「官公署に提出する許認可申請」の例としては、飲食店営業許可や建設業許可など、業種ごとに申請書類があります。
こうした申請書類はビジネスの上で重要かつ複雑なものも多く、スムーズに手続きを進められなくて困っていたり、問題を抱えていたりする事業者が多くいます。
行政書士は、そうした事業者をサポートできる重要な資格といえるでしょう。
一方、事実証明とは会議の内容等の事実を証明すること、権利義務とは権利の発生や存続の効果を生じさせる目的の意思表示に関することで、具体的には「遺産分割協議書」「帰化申請書」「内容証明書」などがあります。
こちらは会社等の事業者以外に一般の方が必要とする書類も多く、専門家が支援したり相談に乗ったりしないと困ってしまう方も多いでしょう。
つまり、行政書士の仕事は需要が大きく、社会に大きく貢献できる業務であることは間違いありません。
実は就職や転職でも活かせる
前述のとおり、行政書士は独立型の資格です。企業に雇用されて、企業内で行政書士の資格を活用することはできません。
しかし、法務部や総務部などでは、資格の有無に限らず法律に詳しい人材を求めていることは間違いありません。
特に、新卒や第二新卒の就職(就活)では、難関国家資格を取得するために努力した事実を含めて評価されるでしょう。
20代~30代前半の転職でも同様です。
一方、ある程度の年齢以上になると、資格取得よりは法務部・総務部などでの勤務経験や実績のほうが重視されるので注意が必要です。
それでも、法律に知見があるという事実は揺るがないので、差別化ポイントの1つになることは間違いありません。
副業で年収アップを目指せる
本業で資格を活用できなくても、副業で活用する手もあります。副業でも真剣に取り組めば、年収100万円程度なら、十分にお金を稼ぐことができますよ。
基本的には通常の行政書士業務を副業で行う形式になりますが、平日昼間に時間が取れない方は、役所周りなどが出来ずに難しいかも知れません。
そうした場合は、行政書士事務所や法人からの業務委託やパート・バイトで仕事を受ける手もあります。
なお、上記はすべて独占業務を行いますから、資格登録が必要です(※東京都の場合、年間の維持費は72,000円)。
ただし、無登録でも試験合格者であれば、予備校の先生やWebライターなどに大きな需要があります。
講師として受験者を教えたり、質問に答えたり、今では動画での講義配信も当たり前になっていますので、そうした機会に挑戦したり。或いは、圧倒的な専門知識を活かして法律や行政に関する記事を書いたり。
無登録でも合格者であるだけで、副業の範囲が大きく広がります。
プライベートで法律の知識が役立つ
仕事だけではありません。行政書士の資格があれば、自分自身だけでなく、身内を含めてプライベートで起こる法律問題に適切に対処できます。
- 遺言書
- 遺産分割
- 離婚調停
- 告発状
- 車庫証明
- 示談書
- 内容証明
など、身内に1人でも詳しい人物がいると、本当に心強いものです。
社会的な信頼性が高い
前述のとおり、弁護士等の超難関資格ほどではありませんが、行政書士や社労士、中小企業診断士は「働きながら取れる最難関資格」と言われていますし、また、国家資格の士業ということで、社会全般における信頼性は非常に高くなっています。
一般消費者における知名度はあまり高くありませんが、行政書士の主要な顧客は事業者であり、そのような方々のなかでは高い知名度を誇ります。
本気で独立開業を目指す人には有望な資格
ここまで読まれた方には、行政書士が価値ある、役立つ資格であることがお判りかと思います。
ただ、本当の意味で行政書士の資格を最大限活用できるのは、独立開業となります。
なぜなら、行政書士の独占業務を活かして多くのクライアントを支援できるのは独立開業だけだからです。
もちろん、資格を取ってすぐに独立開業するのは、失敗(廃業)となる可能性が高いです。
いかに成功するか・・・そのためには、
- 資格取得前から行政書士事務所などで補助者として働き、実務を覚える
- 資格取得後、しばらくは行政書士事務所で使用人として働き実績を積む
など、戦略的に計画を立てることが必要です。他にも、
- すでに独立している先輩に話を伺い、成功のコツを掴む
- 独立に必須な集客・営業・マーケティグスキルを磨く
など、やるべきことは多くあります。
ダブルライセンスなど、差別化・付加価値の追加が必要!
さらに、他の行政書士との差別化・付加価値の追加を考える必要もあります。
社労士、中小企業診断士、宅建、FPなどのダブルライセンスがあれば、業務の幅を広げることができます。
また、官公署の許認可申請の種類などは、現在進行形で新しいものが増えており、それらに一早く対することで差別化にも繋がります。
今ですと、具体的には「民泊関連分野」や「ドローン関連」の手続きや申請サポートができる行政書士は貴重といえます。
如何でしょうか。あなたの工夫次第で、大きく成功できる余地があると同時に、多くのクライアントから感謝される資格であることには間違いありません。
まとめ
「行政書士を取るのは時間の無駄」
そんな言葉を見聞きすると、特に初めての受験者の方は不安になるかも知れません。
しかし、本記事で見てきたように、完全なデマとはまでは言えないものの、基本的には「行政書士は無駄ではなく、取得して役に立つ資格」という事実は揺らぎません。
行政書士試験の受験者の方には、ぜひ資格を取得し、最終的には独立開業を目指して成功を収めて欲しいと思います。