行政書士と税理士の業務内容の違い
行政書士と税理士は士業の中でも代表的な資格で、独立開業や士業事務所勤務のために、資格取得を目指している方が多くいます。
法律の専門家であり、顧客からの依頼を受けて書類の作成や手続きの代行を行うという点では、行政書士も税理士も一緒ですね。
しかし、行政書士と税理士とでは下記のように業務内容に違いがあります。
- 行政書士の業務内容は書類の作成や提出に関する手続き(許認可に関わる書類の作成や権利義務に関する書類の作成など)
- 税理士の業務内容は税金や税務に関する業務(税務代理や税務書類の作成、税務相談など)
行政書士は書類作成のプロ、税理士は税金のプロと考えると非常にわかりやすいのではないでしょうか。
得意分野には大きな違いがありますので、当然のように求められる知識やスキルも異なります。
業務内容の違いを確認したところで、続いて、行政書士と税理士の難易度の違いについて見ていきましょう。
行政書士と税理士の試験の難易度を合格率で比較
合格率は、試験の難易度を計る代表的な指標の1つです。
1点、留意が必要なのは、税理士試験は科目選択制を導入しており、選ぶ科目によって合格率が変わってきます。
具体的には、税理士試験の科目は2種類の会計学と9種類の税法で、11科目のうち5科目に合格するのが条件となっているのです。
そこで、以下では税理士試験の科目別で合格率がどう推移しているのかまとめてみました。
科目区分 | 令和元年度の合格率 | 平成30年度の合格率 | 平成29年度の合格率 | 平成28年度の合格率 |
---|---|---|---|---|
簿記論(必須科目) | 17.4% | 14.8% | 14.2% | 12.6% |
財務諸表論(必須科目) | 18.9% | 13.4% | 29.6% | 15.3% |
法人税法(選択必須科目) | 14.7% | 11.6% | 12.1% | 11.6% |
所得税法(選択必須科目) | 12.8% | 12.3% | 13.0% | 13.4% |
相続税法(選択科目) | 11.7% | 11.8% | 12.1% | 12.5% |
消費税法(選択科目) | 11.9% | 10.6% | 13.3% | 13.0% |
酒税法(選択科目) | 12.4% | 12.8% | 12.2% | 12.6% |
国税徴収法(選択科目) | 12.7% | 10.7% | 11.6% | 11.5% |
住民税(選択科目) | 19.0% | 13.5% | 14.3% | 11.7% |
事業税(選択科目) | 14.8% | 11.0% | 11.9% | 12.9% |
固定資産税(選択科目) | 13.7% | 14.9% | 13.3% | 14.6% |
年度でバラつきがありますが、税理士試験の合格率は10%~15%を推移しています。
一方で行政書士試験の合格率は、11%~15%前後です。
単純に合格率だけで比較すれば、行政書士と税理士は同じくらいの難易度だと考えられるでしょう。
しかし、試験の出題範囲は行政書士よりも税理士の方が膨大なため、資格を取得するまでに長い期間がかかる傾向にあるのです。
行政書士と税理士を勉強時間で比較
行政書士と税理士の試験に合格するまでの勉強時間で比較してみると、次の違いがあります。
- 行政書士試験合格までは約500時間~800時間が目安
- 税理士試験合格までは約2,500時間~3,000時間が目安
行政書士試験に合格するよりも税理士試験に合格するまでの方が、はるかに長い時間かかります。
また、税理士の資格は下記のように選択する試験科目で勉強時間の目安が変わるのが特徴です。
- 簿記論(必須):450時間
- 会計学論(必須):450時間
- 所得税法(法人税法とどちらかは必須):600時間
- 法人税法(所得税法とどちらかは必須):600時間
- 相続税法:450時間
- 消費税法:300時間
- 酒税法:150時間
- 国税徴収法:150時間
- 住民税法:200時間
- 事業税法:200時間
- 固定資産税法:250時間
なるべく短い期間で税理士に合格したい方は、自分の適性に合う科目を見極めて選ぶべきです。
もちろん、行政書士の試験も合格までにそれなりに長い勉強時間が必要ですので、最初にスケジュールをきちんと立てるのがポイントです。
※行政書士試験の勉強時間については、下記の記事も参考にしてください。
行政書士と税理士の年収
行政書士の平均年収については、500~600万円程度、と言われています。
実際のところは、平成30年、日本行政書士会連合会が会員4,000人強に実施したアンケートによると、「全体の78.7%が売上500万円みまん」とのこと。年収は、さらに少ないことになります。
一方、税理士の平均年収はおよそ892万円(2018年発表の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」。職業区分としては会計士と税理士の統計を合算しています)
以上より、年収を単純に比較すると、税理士のほうが、かなりの「高給取り」であることが推察できます。
※行政書士の年収については、下記の記事も参考にしてください。
行政書士と税理士のダブルライセンスはおすすめなの?
行政書士と税理士は求められる知識やスキルが異なりますが、この2つはとても相性の良い資格です。
結論から言えば、ダブルライセンスになることで行政書士と税理士の両方の業務と携わることができ、間違いなく業務の幅が広がります。
一方で、両者とも難関資格のため、ダブルライセンスを実現するためには相応の負担がかかることも覚悟しなければなりません。
つまり、あなたの置かれた立場や状況によっては「ダブルライセンスをおすすめできないケースもある」のです。
上記を踏まえ、この項では、行政書士と税理士のダブルライセンスについて、以下の2点について見ていきましょう。
- 行政書士と税理士のダブルライセンスには、どのようなメリットがあるか
- 行政書士と税理士のダブルライセンスを「おすすめしやすいケース」「おすすめできないケース」は、どのような場合か
ダブルライセンスのメリット①:それぞれの独占業務ができるようになる
行政書士と税理士は両者とも、有資格者しか行うことができない独占業務があります。
それぞれの独占業務ができるようになるのは、行政書士と税理士のダブルライセンスのメリットです。
行政書士と税理士の独占業務には、次の違いがあります。
- 行政書士の独占業務:「官公署に提出する書類の作成や提出手続きの代行」「契約書や内容証明など権利義務に関する書類の作成」「事実証明の書類の作成代行」
- 税理士の独占業務:「本人の代理として納める税務代理」「確定申告の書類など税務書類の作成の代理」「納税額の計算や節税効果の算出などの税務相談」
ダブルライセンスを実現することで、税務から許認可・契約書作成まで、法人に必要な業務において、格段にサポートできる幅が広がります。
「税理士として顧問契約しているクライアントの書類作成業務を行政書士として行う」という働き方もできますので、適切に対応することで顧客からの信頼も大きくなることは間違いないでしょう。
ダブルライセンスのメリット②:士業事務所への就職・転職で有利になる
行政書士や税理士の資格の取得当初に、士業事務所への勤務を考える人は多くいます。
とはいえ、全くの実務未経験の状態で、士業事務所に就職・転職するのはハードルが高いものです。
そんなとき、あなたが行政書士と税理士のダブルライセンスを保持していれば、士業事務所への就職・転職で遥かに有利になるでしょう。
行政書士と税理士のダブルライセンスを考えるような人は、ほとんどの方が将来独立希望だと思います。
実務を学ぶために、まずは税理士事務所や行政書士事務所に就職・転職したい方にとって、ダブルライセンスは大きな武器になるでしょう。
ダブルライセンスのメリット③:独立開業での成功率がアップする
士業事務所への就職・転職だけではなく、行政書士と税理士のダブルライセンスは独立開業する際にも役立ちます。
どちらか一つの資格だけでも、独立開業するのは決して不可能ではありません。
しかし、2つの資格を持っていれば異なるアプローチで顧客やクライアントに対応できますので、成功する確率を高められます。
税理士の資格を持っていれば行政書士登録ができる(おすすめのケース)
ここからは「ダブルライセンスをおすすめのケース」「おすすめできないケース」について見ていきましょう。
まず、おすすめのケースですが、「すでに税理士の資格を持っている方」にとっては、ダブルライセンスはおすすめとなります。
なぜなら、税理士の資格を持っている方は、試験に合格しなくても行政書士に登録できるからです。
次の6つに該当する方は、登録要件を満たした上で行政書士会に登録・入会できます。
- 行政書士試験に合格した者
- 弁護士となる資格を有する者
- 弁理士となる資格を有する者
- 公認会計士となる資格を有する者
- 税理士となる資格を有する者
- 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び特定独立行政法人
参考:行政書士となる資格(東京都行政書士会)https://www.tokyo-gyosei.or.jp/registration/qualification.html
税理士資格を持つ方は無試験で行政書士になれますので、ダブルライセンスは難しくありません。
※行政書士登録について、詳しくは下記の記事も参考にしてみてください。
すでに行政書士として活躍されている方には、ダブルライセンスはおすすめしにくい
一方で、既に行政書士資格を持ち、行政書士として活躍中の方には、ダブルライセンスはおすすめしにくいです。
というのも、前述のとおり、税理士の資格取得には、2,000~3,000時間と膨大な時間が掛かるからです。
1日3時間勉強しても、1年間で1,000時間。つまり、かなり試験勉強に集中しても2~3年は資格取得にかかってしまいます。
行政書士としてバリバリ働いている方にとって、1日3時間も勉強時間をひねり出すことは困難でしょうし、現在、行政書士業務が軌道に乗っているのであれば、そちらに注力したほうが望ましいことも多いはずです。
「行政書士業務がメインで、サブとして税理士資格を使いたい」と考えるのであれば、コストパフォーマンスはよくありません。
以上が、行政書士を取った後、税理士を目指すことがおすすめできない理由です。
ダブルライセンスを考えるとしても、ファイナンシャルプランナーや社労士・中小企業診断士のように「やり方次第では1年以内に取得可能」な資格も視野に入れてみてください。
まずは、様々な資格の情報を収集するところから始めては如何でしょうか。
税理士事務所だけでは、行政書士の活動ができない点に要注意!
前述のとおり、税理士の方は無試験で行政書士とのダブルライセンスをすることができます。
このようなダブルライセンスを目指す税理士の方は、独立・開業をされている方がほとんどでしょう。
しかし、税理士事務所を構えているだけでは、行政書士として活動できない点には要注意です。
行政書士として開業し、自分の事務所を持つ場合、行政書士法施行規則第2条の14の規定で行政書士事務所だと明らかにするために表札の掲示が必須です。
参考:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326M50000002005
事務所の名称に「行政書士」と入っているのが条件ですので、税理士事務所という名目で行政書士の仕事はできません。
税理士事務所に加え行政書士事務所の看板を構える必要がありますので、兼業には注意が必要です。
行政書士と税理士の資格に関するよくあるQ&A
これから行政書士や税理士の資格を目指す方のために、よくある質問をQ&A形式で解説していきます。
Q:行政書士の資格を持っていると税理士の試験の科目免除はありますか?
A:弁護士の資格を有する者は税理士の全科目免除、大学院で学位を得たものは学位を取得した科目の免除があります。しかし、行政書士の資格を有していても、税理士試験の科目免除は特にありません。Q:行政書士と税理士の試験に受験資格はありますか?
A:行政書士は年齢や性別、学歴に関係なく試験を受験できます。一方で税理士の場合は、「大学・短大・高等専門学校を卒業」「大学3年以上で法律学または経済学を1科目以上含む62単位以上を取得」「司法試験合格者」「法人または個人の会計事務に2年以上従事した」などのいずれかの条件を満たさないといけません。Q:アルバイトとして行政書士事務所や税理士事務所で働けますか?
A:士業事務所によっては正社員だけではなくアルバイトも募集しています。実務経験を積みながら行政書士と税理士のダブルライセンスを目指すのは選択肢の一つです。参考:国税庁・税理士試験
まとめ
税理士と行政書士のダブルライセンスにはメリットがたくさんあります。
すでに税理士資格をお持ちの方は無試験で行政書士登録ができますので、ダブルライセンスはおすすめです。
一方、すでに行政書士資格をお持ちで活躍されている方は、「税理士資格のダブルライセンスを目指すことが、自分にとって本当にコスパがよいのか」を考えてみてください。
「税理士も行政書士も資格取得はこれから」という方は、自分のキャリアについて、将来のロードマップを検討してみてはいかがでしょうか。
【参考】本記事執筆にあたり、以下の税理士事務所のWebサイトを参考にさせて頂きました。
■
ここまで、行政書士と税理士のダブルライセンスについてお伝えしました。
行政書士のダブルライセンス全般については、下記記事を参考にしてください。
この記事の監修者 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 , 2級FP技能士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |