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司法書士試験の不動産登記法 民法の理解と登記申請書の雛形が攻略のポイント

司法書士の不動産登記法

不動産登記は司法書士に与えられた本来的な業務であり、現役司法書士の多くがメインの仕事としています。

司法書士試験の不動産登記法は業務に直結する科目といえそうです。

不動産登記法は午後の部に択一式と記述式の2科目が実施されます。

択一式では民法に次いで出題数が多く、さらに、記述式では登記申請書の作成に関わる問題が出題されます。

実体法である民法と比較し、手続法である不動産登記法は

「イメージが湧かない・・・」
「とっつきにくい・・・」

といった印象を持たれがちです。

苦手意識を持つ受験生も少なくない一方で、登記申請書の種類と記載するためのルールを覚えるだけという側面もありますが、登記申請書の種類は100を超え、その手続のルールは民法の理解が前提となります。

こちらでは、司法書士試験の不動産登記法について、試験対策と学習のポイントを解説します。

司法書士の不動産登記業務とは

不動産登記法第1条には、以下のようにあります。

この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。

引用:不動産登記法(e-Gov法令検索)

この文言のなかの、特に「安全」という部分に司法書士が不動産登記に関わる重要性が集約されています。

不動産の登記申請そのものは、権利の移転を行う当事者、また、弁護士も行うことができます。

不動産は高額な財産であり、その権利をめぐっては、当事者へのなりすましなどの不正や手続きの不備があれば、関係者が多大な損害を被ることになります。

トラブルを防ぎ、安全かつ迅速な権利の移転手続きを行うことが司法書士に課せられた役割であり、不動産登記申請件数の9割は司法書士が行っています。

不動産登記に司法書士はどのように関わるのか

不動産登記法に対するとっつきにくいイメージは、日常生活のなかで不動産取引の当事者となる機会が少ないことがあげられます。

身近な不動産取引として住宅の購入を例に、司法書士がどのように不動産登記に関わるのかを見てみましょう。

マイホームの購入では住宅ローンを利用するケースが一般的です。購入代金の決済は、住宅の買手と売手のほか、資金の貸手である銀行の融資担当者が一同に会して行われます。

物件によりますが、売手は個人や不動産会社、住宅メーカーなどであり、この他に、買手と売手の仲介会社が加わることもあります。

この場に司法書士が加わります。

司法書士は当事者から書類への署名捺印をもらい、記載事項の最終確認をした上で銀行の融資にゴーサインを出し、資金が売手に振り込まれたことを確認します。

そして、当日中に登記申請の書類を法務局に提出するというのが不動産取引の慣例です。

住宅の購入という不動産取引に伴う不動産登記に関わる司法書士の仕事は、以下のような流れになります。

決済前の司法書士の仕事

1. 当該不動産の登記事項証明書の取得
2. 所有権移転登記申請書の作成
3. 売手から登記識別情報を取得
4. 売手から印鑑証明を取得
5. 登録免許税納付のための収入印紙徴用台紙を作成しておく
6. 登記原因証明情報を作成しておく
7. 買主の住民票を取得
8. 委任状の作成

決済当日の司法書士の仕事

1. 売主、買主の本人確認 特に売主を入念に確認する
2. 決済前に準備した各種書面への、売主・買主の署名捺印をもらう
3. 銀行に売買代金の融資実行許可を出す
4. 融資の借用書に買主が署名捺印
5. 売主への着金を確認し領収書を買主に渡す
6. 申請書類一式を管轄法務局に提出

これ以外に物件に残債による抵当権が設定されているケースでは、売主への融資による抵当権抹消手続きなどが加わります。

一連の流れのなかで、司法書士は売主のなりすましなどの不正や、取引上の瑕疵がないかどうかのチェック、売主・買主を目の前にしての確認にいっそうの注意を注ぎます。

場合によっては、当日の決済の現場で資金の移動にストップをかけることもあり得ます。

相続なども含め、高額に及ぶ不動産の権利移転に対し、厳正な手続きを設けることにより安全性が担保され、その手続を代行する司法書士には高い信頼性が求められます。

司法書士試験のなかでの不動産登記法の位置づけ

司法書士試験11科目の科目別問題数・配点のなかで、不動産登記法は択一式と記述式の配点を合計すると83点であり、満点280点の3割を占めています。

20問出題される民法の配点は60点と満点に占める割合は2割ほどなので、択一式と記述式を合わせると不動産登記法が司法書士試験で最も大きなウェイトを持つ科目です。

<司法書士試験の科目別問題数と配点>
試験科目
問題数
配点
午前の部
択一式
憲法
3問
9点
民法
20問
60点
刑法
3問
9点
商法・会社法
9問
27点
合計
35問
105点
午後の部
択一式
不動産登記法
16問
48点
商業登記法
8問
24点
民事訴訟法
5問
15点
民事執行法
1問
3点
民事保全法
1問
3点
供託法
3問
9点
司法書士法
1問
3点
合計
35問
105点
午後の部
記述式
不動産登記法
1問
35点
商業登記法
1問
35点
合計
2問
70点
合計
72問
280点

また、
司法書士試験では基準点という足切り点数が、択一式、記述式それぞれに設けられています。

法務省から発表されている過去3年の合格点と基準点は以下の通りです。

2017
2018
2019
平均
筆記試験合格点
207.0
212.5
197.0
205.5
基準点(択一午前)
75
78
75
76
基準点(択一午後)
72
72
66
70
基準点(記述)
34.0
37.0
32.5
34.5

法務省 司法書士試験のページ
http://www.moj.go.jp/shikaku_saiyo_index3.html

筆記試験合格点は過去3年の平均では205.5点
正答率にすると73.3% (=205.5/280)
と7割では合格できないということになります。

択一式の基準点は午後の部のほうが若干低くなりますが、足切りを上回るためには76/105(択一式午前)、70/105(択一式午後)と、択一式は7割以上の正答率が求められます。

それに対し、記述式は基準点が34.5/70と5割前後となっています。

全体で7割の基準点をクリアし、さらに数問のプラスアルファの得点を積み重ねることで合格圏内に達する、というのが司法書士試験攻略のイメージです。

不動産登記法の勉強法

不動産登記法は主に不動産という財産に関わる権利の移転手続きについて定めた法律であり、実体法である民法が想定する登記制度について定めた手続き法です。

不動産登記法をマスターするためには、物権や用益権、担保権、債権などの財産法に加え、親族・相続に関わる家族法など民法の知識が前提となります。

試験対策としては、不動産登記法の択一式と記述式、民法の3つの科目について、効率の良い順番と時間配分で進めていくことが大切です。

択一式の対策

冒頭に述べたように、不動産登記法は司法書士の柱となる業務についての能力を測る科目です。
逆に言えば、不動産登記の実務を行うために必要な知識を問われているので、問われる知識はある程度決まっていると言えます。

そのため出題数が多いものの、同じ論点が形を変えて繰り返し出題される問題も多いのが不動産登記法の特徴です。
数年分の過去問を繰り返し解くことで、頻出の論点を押さえておくのがコツです。

具体的には、表示変更、所有権、抵当権、根抵当権、用益権、登記原因証明情報が例年多く出題されています。

これらについては民法との関連も踏まえ、入念な学習が必要となります。

また、不動産登記法の法律に加え、先例と呼ばれる不動産登記令や不動産登記規則、登録免許税などについても出題されます。
登記の実務にも関連する論点であり意識して覚えていくことが重要です。

記述式はどんな問題が出題されるのか

午後の部の第36問が不動産登記法、第37問が商業登記法の記述式問題です。
択一式の問題が問題用紙の1ページないしは2ページに、各1問の問題文と選択肢が収められているのに対し、記述式は問題文と添付情報、事実関係などを説明する文章などが十数ページに及びます。

不動産登記の具体的なケースについて、登記の目的、添付情報、申請事項、登録免許税額など登記申請書に記載しなければならない内容を実際に記述する形式です。

出題されるのは登記申請書のさまざまなバリエーションです。
登記申請書は登記申請の目的によって書式(雛形)が異なります。

法務局のホームページで不動産登記の申請書様式を見ることができます。
主要なものだけでも以下のような雛形があります。

1. 土地地目変更登記申請書
2. 所有権保存登記申請書
3. 合筆登記申請書
4. 所有権移転(売買)登記申請書
5. 所有権移転登記申請書(贈与)
6. 財産分与による所有権移転登記申請書
7. 抵当権設定登記申請書
8. 根抵当権設定登記申請書
9. 共同根抵当権設定登記申請書
10. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(住所移転の場合)
11. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(住居表示の場合)
12. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(氏名変更の場合)
13. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(住所及び氏名変更の場合)
14. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(住所及び氏名変更の場合(敷地権付き区分建物)の場合)
15. 登記名義人住所・氏名変更登記申請書(会社の商号又は本店を変更又は移転した場合)
16. 抵当権抹消登記申請書
17. 根抵当権抹消登記申請書
18. 所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)
19. 所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言)
20. 所有権移転登記申請書(相続・法定相続)
21. 所有権移転登記申請書(相続・遺産相続)
22. 所有権移転登記申請書(相続・遺産相続)(数次相続)
23. 建物滅失登記申請書
24. 登録免許税の計算

上の雛形を見て分かる通り、
「所有権移転登記申請書」や「登記名義人住所・氏名変更登記申請書」などはいくつもの種類があり、記述式問題では更に細かい点が問われます。

試験対策として覚えなければならない雛形は、受験予備校のカリキュラムや受験参考書によって異なりますが、100~200以上の雛形が挙げられています。

解答用紙に示される雛形の基本は以下のものです。

登記の目的
申請事項等
登記原因
及びその日付
上記以外の
申請事項等
添付情報
登録免許税額
建物
敷地権
合計

.

この項目に従って、問題文に示された内容をもとに登記申請書を作成します。
この他に手続きや法律行為などを空欄に記述するといった出題もあります。

多く出題される登記の種類は、所有権、用益権、担保権を大きな柱として、保存登記、移転登記、用益権の設定・売買・相続など、地役権の設定、抵当権・根抵当権の設定、相続、代位弁済、順位変更、差押・仮処分などの処分の制限、信託の登記、仮登記などがあげられます。

平成31年度(2019年度)に第36問で出題された登記は、「相続による移転登記・共有持分の移転登記」、「根抵当権の名義人の住所変更・極度額の変更登記」、「売買による所有権の移転登記」、「弁済による抵当権の抹消登記」となっています。

記述式の対策

午前の部択一式の試験時間は9:30~11:30までの2時間で35問
午後の部は13:00~16:00までの3時間ですが、択一式35問に加え記述式の2問が加わります。

午後の部の択一式に同じ時間をかけたとすると、記述式にかけられる時間は1時間しかありません。

前述したとおり問題文の情報量が多いことと共に、解答用紙への記述量も多いのが記述式科目です。
1時間で不動産登記法と商業登記法の記述式2問を解答するには時間との戦いになってきます。

記述式の基準点は5割の水準であり、択一式のようにいかに取りこぼす問題を減らすかではなく、限られた試験時間のなかで、得点に結びつく解答を5割からどれだけ積み上げられるかが合格に近づくポイントです。

そのためには雛形のパターンに慣れていることが求められます。

合格者は問題文を読んで瞬時に必要な申請手続きを理解し、どの雛形を使って解答すべきか浮かんでくるレベルに達しているといわれます。

それぞれの雛形の申請書を実際に手を使って書く作業を繰り返すことで、記述式への対応力が付けていくことが必須の試験対策です。

雛形を切り口としたテキストは以下のものが多く使われています。

東京リーガルマインド 司法書士試験 雛形コレクション288 不動産登記法<第3版>

早稲田経営出版 司法書士 山本浩司のautoma system 試験に出るひながた集 不動産登記法 第3版

不動産登記法は民法の土台と雛形がポイント

記述式は雛形だけを覚えても、問題文に示される登記情報や添付情報、事実関係から、提示された登記申請案件がどのような実体関係で構成されるのかを読み取る力がなければ、解答として何を記述すべきかわかりません。

また、
問われている内容に対して、手続きや必要な書面のルールを覚えていなければ得点に結びつく解答を作成できません。

不動産登記法は択一式、記述式合わせて、土台となる民法の学習を組み合わせて進めていくこと、記述式の対策として雛形に沿って実際に登記申請書を書く作業を訓練することの2点が、攻略法の基本です。