会社法・商法は司法書士試験における主要4科目のひとつです。
さらに、記述式科目の商業登記法は会社法・商法の手続法であり会社法・商法の知識が密接に関係しています。
不動産登記法と同様に、択一式と記述式2つの科目に関わる重要な科目と位置づけられます。
民法などに比べて条文が細かく、複雑な部分も多いことから難易度が高いと言われるのもこの科目の特徴です。
苦手意識を持たれがちな会社法・商法をどうやって攻略するか。
出題の中身と勉強法について詳しく解説します。
会社法と商法について
文字通り、会社法は会社について、商法は商売についてのルールを定めた法律です。
明治32年に制定された商法から、会社の形態や運営などについて定めた部分を抜き出し、平成17年(2005年)に新しく制定されたのが会社法です。
商法は民法の、会社法は商法の特別法という階層構造を持ち、特別法は上位の法律に優先するので、会社法に規定がなければ商法、さらに民法という順位づけで適用されます。
(実際には民法の特別法となる会社法の規定はほとんどないのが実体です。)
会社法は8編、商法は3編から構成されています。
<会社法>
第一編 総則
第二編 株式会社
第三編 持分会社
第四編 社債
第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転
第六編 外国会社
第七編 雑則
第八編 罰則
<商法>
第一編 総則
第二編 商行為
第三編 海商
明治時代に制定された古い商法を、時代とともに変わる会社のあり方に合わせ、主に規制緩和を目的に新しい制度として作り直したものが会社法です。
会社法は会社の設立や資本、組織などについてのルールを定めるものです。
会社を所有する側、経営する側にとっての法律であり、会社の種類のなかで圧倒的多数を占める株式会社についての規定が多くの割合を占めています。
会社法・商法の位置づけ
司法書士の実務に大きく関わるのは会社法の部分です。
本試験の出題数も、会社法から8問、商法から1問と会社法をメインに出題されます。
登記業務のひとつ商業登記は、不動産登記とともに司法書士の柱となる業務です。試験科目のなかでも、商業登記法の理解に不可欠なのが、その実体法である会社法・商法であり、主要4科目のひとつとして疎かにすることのできない科目に位置づけられます。
不動産登記と商業登記それぞれに関わる、主要4科目と記述式を合わせたそれぞれの科目の問題数、配点を見ると以下の通りです。
実体法
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手続法
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午後記述式問題
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合計
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不動産登記
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民法
(午前択一式)
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不動産登記法(午後択一式)
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不動産登記法
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20問(60点)
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16問(48点)
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1問(35点)
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37問(143点)
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商業登記
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会社法・商法(午前択一式)
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商業登記法
(午後択一式)
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商業登記法
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9問(27点)
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8問(24点)
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1問(35点)
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18問(86点)
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合計
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29問(87点)
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24問(72点)
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2問(70点)
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55問(229点)
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主要4科目と記述式科目をあわせると280満点中の229点と、82%を占めています。
2017年から2019年までの筆記試験合格点は平均で205.5点(73%)ですので、仮にこれらの科目をすべて正解できれば合格することができることになります。
実際には記述式の基準点と正答率が5割に近い水準で、平均点を押し下げているため、択一式の正答率は、全体の正答率である7割を超えて9割に近い水準が合格者の実体であると考えられます。
午前の部の科目である会社法・商法は実体法であり、午後の部の手続法科目と記述式科目がある商業登記法を解答するための知識のベースとなるものです。
必然的に学習のなかに占める会社法・商法の優先順位とウェイトは高まります。
会社法・商法で出題される内容
会社法と商法の内容は以下の通りです。
会社法
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第一編 総則
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通則(用語の定義など)、会社の商号、会社の使用人(支配人)、会社の代理商
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第二編 株式会社
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株式会社の設立、株式、新株予約権、機関、計算等、定款、事業譲渡、解散・清算
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第三編 持分会社
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合名会社、合資会社、合同会社、設立、社員、管理、社員の加入及び退社、計算等、定款、解散・清算
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第四編 社債
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募集社債、社債管理者、社債管理者集会
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第五編 組織変更
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通則(株式会社、持分会社の組織変更)、合併、会社分割、株式交換及び株式移転、組織変更の手続
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第六編 外国会社
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外国会社の要件、外国会社の登記、疑似外国会社、外国会社の財産の清算、他の法律の適用
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第七編 雑則
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会社の解散命令、訴訟、非訴、会社の登記、公告
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第八編 罰則
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取締役等の特別背任罪、虚偽文書行使、預合、株式超過発行、贈収賄、利益供与、罰則、過料など
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商法
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第一編 総則
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通則、商人、商業登記、商号。商業帳簿、商業使用人、代理商
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第二編 商行為
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売買、相互計算、匿名組合、仲立営業、問屋営業、運送取扱営業、運送営業、寄託
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第三編 海商
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船舶、船長、海上物品運送、船舶の衝突、海難援助、共同海損、海上保険、船舶先取得特権及び船舶抵当権
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これに対し、
令和元年度から過去5年遡って本試験で出題されたのは以下の論点です。
平成27年度
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平成28年度
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平成29年度
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平成30年度
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令和元年度
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第27問
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株式会社の発起人設立
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株式会社の設立
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株式会社の設立
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株式会社の設立
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株式会社の設立
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第28問
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株主名簿
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登録株式質と略式株式質
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異なる種類の株式
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譲渡による株式の取得
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株式の分割と株式無償割当
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第29問
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公開会社でない取締役会設置会社の株主総会
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単元株制度
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自己株式と自己新株予約権
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新株予約権
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新株予約権付社債
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第30問
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会計限定監査役
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大会社
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監査役設置会社である取締役会設置会社
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取締役会設置会社
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株主による議決権の行使
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第31問
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株式会社の解散と清算
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監査役設置会社と監査役等委員会設置会社との異動
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監査役の任期
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監査役設置会社
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取締役会
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第32問
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持分会社
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持分会社
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取締役会設置会社の計算等
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持分会社
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剰余金の配当
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第33問
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社債権者集会
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新設分割
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合同会社
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社債管理者
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持分会社
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第34問
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株式交換
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特定責任追及の訴えの制度
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組織変更
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吸収合併
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合併
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第35問
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商事消滅時効
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商人の支配人
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商人の商号
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商法上の損害賠償責任
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商法上の仲立人
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過去5年に会社法・商法で出題された論点を見ると、株式、機関設計、持分会社、組織変更と、会社法の主要な論点が毎年出題されてます。
特に株式会社の設立は第27問で必ず出題される論点です。
商法は第35問で出題されます。
条文数も少なく、法律のわかり易さという点でも、テキストや過去問の一般的な学習で対策ができます。
司法書士試験の会社法・商法は難易度が高い
会社法・商法は会社の所有や経営管理サイドに関わるルールであり、特に株式や機関、組織変更などは具体的なイメージを持ちにくい部分です。
また、
会社法の条文は民法などと比べて、条文そのものが長い、条以下の項、号にわたって細分化された内容が多いことが六法を眺めただけでもわかります。
読みにくい、理解しにくい、覚えにくいなど、難しいと感じられやすい科目です。
このような法律そのものの成り立ちに加えて、試験問題では条文のなかの細かい部分にわたって問われるため、司法書士試験の会社法は難易度が高いと言われています。
会社法・商法の勉強法
合格レベルに達するためには、条文の細かいところまで記憶することが求められます。
しかし、
頭から条文の暗記に取り組むことは学習の負荷が大きいこと、論点となる部分の全体像を把握できないことなど、効率的な試験対策とは言えません。
出題される内容で見たとおり、問われる点は細かい反面、大きな論点のカテゴリーは限られています。
全体を把握した上で細かい部分の知識を徐々に取り込んでいくのが会社法・商法の攻略法です。
論点の全体像を把握するためのインプット
会社の設立や運営にあたり株式がどこに関わるのか、持分会社にはどんな種類があるのか、組織変更のパターンなど、まず論点の全体像をつかむのが最初の段階です。
その上で試験で問われるレベルの条文知識を徐々につけていくのが正攻法です。
条文の羅列ではイメージしにくい論点をわかりやすくイメージしやすい形で解説した、受験予備校の講義や市販のテキストを活用し、覚えるべき論点や制度の全体像を理解していきます。予備校の講義や動画などを利用した学習が効果的でしょう。
新しい法律なので過去問数は限られる
会社法は平成17年に制定されたものであり、司法書士試験で会社法が出題されるのは平成18年度(2006年度)からです。
会社法・商法は9問の出題なので平成31年度(2019年度)までの過去問の数は126問(=9問✕14年度分)になります。
取り組むべき問題数のボリュームが限定されているため、学習への負担という点では取り組み易く感じられるのではないでしょうか。
過去問を解くなかで条文を確認する、繰り返し解くことで条文を覚えていくという作業は多くの受験者が行う方法ですし、効果的です。
しかし、過去問だけの条文知識だけでは足りないと言えます。
新しい法律であり、今後新たに出題される条文や論点が増えていくことは確実だからです。
過去問で取り上げている条文以外の知識を網羅するための学習も必要となります。やり方に王道はありませんが、過去問で潰しきれない条文の暗記や、市販の問題集などを取り入れることも視野に入れていくといいでしょう。
商業登記法で会社法・商法の知識を確認していく
会社法・商法の位置づけで示したように、会社法・商法と商業登記法は実体法と手続法の関係にあります。
午後の部の択一式と記述式の商業登記法の2科目にわたって、会社法・商法の知識が必要とされます。
商業登記に関連する、午前・午後のの3科目を学習するなかで、実体法である会社法・商法と、その手続法である商業登記法を行き来しながら条文を記憶していくのが理にかなっています。
それぞれの知識を有機的な形で確実なものとすることができます。
これは民法と不動産登記法の最重要科目にも言えることです。
商業登記に関連する科目全体を通して条文を覚えていくのがコツ
司法書士試験の会社法・商法は、条文からの出題が多いこと、そして条文の細かい部分を知らなければ、選択肢の正誤の判定ができないという問題も少なくありません。
そのため、試験対策として条文の暗記が強調されます。
これまでに述べたとおり、条文から入ってそれを記憶していくことは、自らハードルを上げることに繋がりかねません。
テキストや過去問、商業登記法科目の学習を通して、細かい条文知識を広げながら、確実なものにしていくことが会社法・商法の勉強方法です。