難関資格と言われる司法書士。
狭き門の幅はどれくらいなのか、自分の現在の立ち位置から届く範囲にあるかどうかは、資格を目指すにあたって誰もが考えることですよね。
他の資格と比べた場合の司法書士試験の難易度はどの程度なのでしょうか。
そもそも、
さまざまな資格は目的や制度、試験内容が異なるので、資格取得の難しさを難易度として比較することや、ランキングとして順位付けすることには無理があります。
あえて、比較しようとすれば、それぞれの資格試験の合格率や合格者の出身大学、合格者の平均的な学習時間など「難易度」の目安となる何かしらの指標が手がかりになるでしょう。
難しいといわれるいくつかの資格試験と比較することで、自分のバックグラウンドや能力と司法書士試験との距離感をつかむための判断材料としてみるのもひとつの方法です。
司法書士の比較対象となる資格は?
一般的に、弁護士、医師、公認会計士、国家公務員総合職(1種)、不動産鑑定士、弁理士などが、三大国家資格や三大難関資格として名前のあがる、難易度の高い資格です。
司法書士と同じ法律系資格である行政書士や弁理士、社労士、登記業務に関連のある不動産系の資格として宅建や土地家屋調査士など。
また、
士業という観点では、税理士なども司法書士試験の難易度を語るときに比較されることが多いのではないでしょうか。
これらの資格を職務分野ごとに難易度を示す要素についてまとめると以下のようになります。
法律系
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資格名
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合格率
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試験科目
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受験資格
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勉強時間
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試験日数
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司法書士
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601/13683
4.4%
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択一式11科目
記述式2科目
口述試験
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なし
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3000
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択一式・記述式1日
口述1日
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弁護士(司法試験)
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1502/4466
33.6%
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短答式3科目
論文式7科目+選択科目1
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法科大学院
予備試験
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3000~
8000
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短答式1日
論文式3日
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弁理士
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284/3488
8.1%
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短答式7科目
論文式必須3科目+選択1科目
口述試験
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なし
|
3000
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短答式1日
論文式2日
口述1日
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社会保険労務士
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2525/38428
6.6%
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選択式・択一式
8科目
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学歴
実務経験
他の国家資格
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800~1000
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1日
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行政書士
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4571/39821
11.5%
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択一・多肢選択式2科目
記述式3問
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なし
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500~1000
|
1日
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不動産系
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|||||
資格名
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合格率
|
試験科目数
|
受験資格
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勉強時間
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試験日数
|
不動産鑑定士
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121/1767
6.8%
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短答式2科目
記述式4科目
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なし
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2000~5000
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短答式1日
記述式3日
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土地家屋調査士
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406/4198
9.7%
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択一式3科目
書式1科目
口述試験
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なし
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1000
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筆記1日
口述1日
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宅地建物取引士
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37481/
276019
17.0%
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択一式4科目
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なし
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200~500
|
1日
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財務会計系
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|||||
資格名
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合格率
|
試験科目数
|
受験資格
|
勉強時間
|
試験日数
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公認会計士
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1337/10563
12.6%
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短答式4科目
論文式5科目
+選択1科目
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なし
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3000~5000
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短答式1日
論文式3日
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税理士
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5388/29779
18.1%
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11科目中5科目を選択
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学歴要件
資格要件
職歴要件
認定要件
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3000
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3日
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※合格率は2019年度、最終合格者/受験者数
資格の難易度を決める要素
難関といわれる資格は、医師や弁護士をはじめとして、その資格保有者のみに許可された独占業務を持つ国家資格です。
それぞれの独占業務は、特定の職務を行うために法律によって定められたものであり、必要とされる専門知識や業務能力は、職務分野によって異なります。
法律に関わる仕事をする弁護士と、企業の会計を監査する公認会計士とでは、求められる能力や知識は異なり、それぞれに資格を与えるための試験も同じ基準で比べることができないのは当然のことでしょう。
資格の上下関係
法律系の資格のなかで弁護士は別格の地位が与えられています。
弁護士の資格を得ることによって、弁理士、税理士、行政書士、社会保険労務士、海事代理士、海事補佐人の独占業務を行うことができるからです。
弁護士は司法書士の独占業務である登記も行うことができるとされています。
同様に公認会計士の資格者は税理士試験に合格することなしに、税理士登録することができます。
弁護士と公認会計士は、他の資格の独占業務を行うことができますが、その逆はありません。
この2つの資格は下位にある資格より、試験においても広範な知識や高いレベルが求められると考えるのが妥当です。
難易度という点で、法律系の資格のなかでは弁護士、財務会計系の資格のなかでは公認会計士が頂点に位置しています。
弁護士と公認会計士が、法律の上で無条件、または登録することで他の士業の業務ができるとしても、実際には特化した専門性が求められる登記業務は弁護士でも対応できないことがほとんどです。
また、
主に大手法人顧客を対象とする公認会計士が、個人や中小企業が主要顧客である税理士の業務分野に進出するケースも多くはありません。
合格率は難易度を表すのか?
難易度を示すひとつの指標が合格率です。
受験者の数に対する合格者の割合が少ないほど狭き門といえます。
しかし、
合格率に限ったことではありませんが、割合の数字はその中身や母数の大きさを考えないと正しく解釈することができません。
司法試験の合格率は法科大学院修了、または、予備試験合格という前段階でスクリーニングされた受験資格者が母数となります。
従って、
司法書士試験の合格率が4.4%だからといって、受験者の3割(33.6%)が合格する弁護士(司法試験)よりも難易度が高いとはいえません。
受験者数の少ない資格の場合
弁理士、土地家屋調査士、不動産鑑定士等は非常に受験生の人数が小さい資格であり、その規模は5千人未満です。
以下がそれぞれの大まかな職務内容です。
- 弁理士 ー 特許をはじめとする知的財産権の出願や紛争処理など
- 不動産鑑定士 ー 不動産の経済的価値評価
- 土地家屋調査士 ー 登記に関わる土地建物の物理的な調査・測量
士業のなかでも、上にあげた資格は特に専門領域の限られる資格であり、合格率の母集団となる受検者のバックグラウンドや属性は他の資格とは異なると考えられます。
具体的には、
弁理士の受検者は理工系の学部出身者が多くを占めていたり、不動産鑑定士、土地家屋調査士は建築土木系の学歴や不動産業界からの資格取得が多いというのがそれぞれの特徴です。
法律系の資格である弁護士や司法書士の受験者は法律系学部出身者が多く、受験者数の少ないこれらの資格は、受験者の属性が異なるという点で難易度を比較することは難しいのではないでしょうか。
司法書士、社会保険労務士、行政書士の難易度
受験者数では行政書士と社会保険労務士が、4万人を下回る同じような規模感です。
この2つの資格は、ともに書類作成の代行が主な職種であり、歴史的には行政書士から労務・社会保険関係の部分を切り離して作られたのが社会保険労務士です。
行政書士の試験科目は、憲法、商法、民法、行政法、基礎法学と広く法令全般が出題範囲であるのに対し、社会保険労務士は、労働基準法や雇用保険法、厚生年金保険法など、労務・社会保険関係の法令に限られています。
この2つの資格に関しては合格率が示すとおり、社会保険労務士のほうが難しいとする認識が一般的のようです。
司法書士も明治時代からの歴史を持つ資格であり、代書人として法律関係の書類作成を業務とする資格です。
合格率は行政書士、社会保険労務士よりさらに低い数字となっています。
試験科目も記述式2科目を含む11科目と、行政書士、社会保険労務士より多く、その試験範囲は広いといえます。
行政書士の合格基準は正答率60%で合格する絶対評価であるのに対し、社会保険労務士と司法書士は相対評価で合否が判定されます。
社会保険労務士の合格圏は上位5%、正答率で6~7割といわれていますが、司法書士の2019年度の合格ラインは正答率で71%、択一式で7~8割、記述式で5割以上の正答率がないと合格できないというのが定説です。
司法書士と社会保険労務士の難易度を比較すると、試験範囲の広さ、求められる正答率の高さから見ても、合格率の数字のとおり司法書士のほうが難しい試験であるといえるでしょう。
合格に必要とされる勉強時間
上の表にあげたそれぞれの資格の勉強時間は、受験予備校などで一般的にいわれている、合格に必要とされる勉強時間です。
受験予備校での講義の時間なども含み、司法試験については法科大学院、予備試験の学習時間も含んでいます。
もちろん、
勉強時間には個人差があるので、一律に決められるものではなく、この数字は目安として考えるべきものです。
これまで触れた資格の勉強時間を見ると、難易度が高いとした資格は比較した資格よりも長くなっています。
難易度が上の資格は、科目数が多かったり、マークシートによる択一式のほか、記述式、論文式など、独自の対策が必要であるという面があります。
こういった点も、難易度に影響する要素と考えていいのではないでしょうか。
平均受験回数 合格まで何年かかるか
前述に取り上げた資格はいずれも難易度が高いといわれる国家試験です。
合格に必要な勉強時間を見ても明らかですが、合格者は多大な時間と努力、費用をかけて受験勉強に心血を注ぐことで結果を手にしています。
1000時間を超える勉強時間が必要な資格は、複数年、複数回数の受験による合格者の割合が大きいことも、難易度を考える上でポイントです。
資格
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平均受験回数 平均年数
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司法書士
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5回以上(50.5%) 3回(15.5%) 2回(12.6%) 4回(11.7%) 1回(9.7%)
LEC 2019年度司法書士試験合格者データ
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弁護士(司法試験)
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1回(58.9%) 2回(18.8%) 3回(9.3%) 4回(7.2%) 5回(5.9%)
法務省 令和元年度司法試験の採点結果
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弁理士
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合格者平均受験回数 3.8回
特許庁 平成30年度弁理士試験の実施状況
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社会保険労務士
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合格者平均受験回数4~5回
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行政書士
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1回(57.3%) 2回(19.4%) 3回(14.1%) 4回(3.5%) 5回以上(5.7%)
合格率10%台の難関資格「行政書士」試験に合格した人の傾向を発表
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不動産鑑定士
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5回以上(27%) 2回・3回(22%) 1回(16%) 4回(13%)
国交省 不動産鑑定士の人材育成について 論文式試験合格までの回数
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土地家屋調査士
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5回以上(30%) 2回(22%) 3回(19%) 4回(17%) 1回(12%)
東京法経学院 合格者アンケート
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宅地建物取引士
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合格者平均受験回数 1~2回
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公認会計士
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2~3年未満(35%) 1~2年未満(24%) 3~4年未満(22%)
4~5年未満(10%) 5年以上(8%) 1年未満(1%)
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税理士
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合格までの平均年数 10.37年
Markの資格hack
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合格までの受験回数や年数は多くなるほど、難しい資格であると考えるのが自然です。
司法書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士は、合格者に占める受験回数5回以上の割合が最も多くなっています。
平均受験回数を比較する上で、知っておかなければならないのは、受験者の属性と試験制度です。
最難関資格の弁護士(司法試験)と公認会計士は少ない受験回数で合格している受験者の割合が高いことがわかります。
司法試験は法科大学院を修了するか、予備試験に合格すれば受験資格を取得できます。
合格者に占めるそれぞれの割合は、おおよそ8:2の割合です(2015年度)。
法科大学院は大卒法学部系出身者で2年、大卒法学部系以外で3年の履修期間が設けられているので、大卒後法科大学院を経て司法試験の受験資格を得る時点の年齢は25歳前後、予備試験通過者の司法試験合格者の年齢構成を見ても、20~30代が8割以上(2015年度)を占めています。
また、5回までしか受験できないという縛りもあるため、司法試験は制度の面で、社会人がキャリアチェンジとして選択できる資格としては高いハードルが存在するといえます。
合格者の年齢分布という点では、公認会計士にも同様なことがいえます。
2019年度公認会計士試験合格者の年齢構成を見ると20代ー80.6%、30代ー15.0%と、ほとんどが若い年代のうちに受験勉強に専念して合格を手にする資格です。
これに対し、税理士は合格に要する平均年数が10年以上と、他の資格から飛び抜けた数字を示しています。
税理士試験は科目合格という試験制度が独特で、11科目中5科目に合格することで資格を手にすることができますが、合格した科目は翌年以降もキープできるため、1年で1科目ないしは複数科目ずつ積み上げながら、年数をかけて官報合格(5科目すべての合格)を目指すのが一般的です。
科目合格のみでも会計・税務関連の事務所や専門部署での就業機会が得られることから、働きながら長期間かけて取り組む人が多いのが税理士試験です。
司法書士試験の難易度は
法律系資格の中では、司法書士よりも弁護士(司法試験)のほうが難易度は高く、司法書士は、社労士や行政書士より難易度が高いといえます。
不動産系の資格の不動産鑑定士と司法書士の比較では、合格に要する年数の点で司法書士のほうが幾分長い期間を要するのではないかと考えられます。
財務会計系の公認会計士と司法書士では公認会計士のほうが司法書士よりも難易度が高いという認識が一般的です。
弁理士は試験科目や受験者の属性の点で理系要素が大きいことから、法律系資格として比べることは難しいでしょう。
司法書士試験の「難易度」まとめ
多大な労力とエネルギー、場合によっては犠牲を払いながら長い時間をかけて手に入れることができるのが難関資格です。
何よりも、
資格取得はスタートラインでしかなく、資格によってエントリーできる士業の世界で何をするのか…という明確な目的意識がなければ、難関試験の合格にたどり着くのは難しいでしょう。
ネットには資格ランキングとして、合格率のみで順位付けしたものや、資格に偏差値をつけた根拠の乏しい情報が見られます。
安易な情報にまどわされることなく、自分の現在地から難関試験突破までの道のりを具体的に計画すること、地道な努力を続けることで、ゴールは見えてくるはずです。