行政書士の資格で行える業務のADR(裁判外紛争解決手続)とは?
行政書士の資格を持つ方は、官公署に提出する書類を代理人として作成したり、権利義務や事実証明の書類の作成や手続き代理をしたりといった業務ができます。
これらの仕事内容は、行政書士の資格保有者しかできない独占業務です。
※行政書士の独占業務については、こちらのページで詳しくまとめました。
行政に関する手続きの円滑な実施に寄与し、国民の利便に資することを目的として行政書士制度は作られました。
しかし、近年では行政書士の新しい仕事の舞台として、ADR(裁判外紛争解決手続)が注目を集めています。
ADRは、➀「Alternative(代替的)」、②「Dispute(紛争)」、および③「Resolution(解決)」の3つの頭文字を取ったもので、訴訟の手続きを取らずに紛争を解決する手続きです。
ADRには、調停手続き、仲裁手続きなどがありますが、行政書士の場合は「取り扱い分野を絞った調停手続き」を行うようになっています。
そもそも、「紛争や訴訟に発展したら裁判が必要なのでは?」と思っている方も多いでしょう。
問題によっては裁判の方が良いケースはありますが、分野によっては行政書士にADR(裁判外紛争解決手続)を依頼するのは選択肢の一つです。
裁判に持ち込むほどの内容ではない紛争が起こった時に、ADR(裁判外紛争解決手続)を行う余地は十分にあります。
そのため、今後は更にADR(裁判外紛争解決手続)の業務をメインで取り扱う行政書士は増えるのではないでしょうか。
なお、ADRは法務大臣の認証を受けた一定の団体が行うことになります。各都道府県行政書士会のうち、一定の行政書士会が法務大臣の認証をうけ、行政書士ADRセンターを運営しています。
ADR業務を行いたい行政書士は、各行政書士ADRセンターに所属してADR業務を行うことになるのです。
行政書士が取り扱えるADR(裁判外紛争解決手続)の内容
裁判で争うほどの大きな問題や紛争でない場合に、調停人を介して問題の解決を図りたい時に行政書士のADR(裁判外紛争解決手続)が役立ちます。
つまり、問題や紛争の当事者は、解決の手段として裁判とADR(裁判外紛争解決手続)から選べるようになりました。
行政書士の国家資格を持つ方がADR(裁判外紛争解決手続)で活動できるテリトリーとして、次の4つの問題が代表的ですね。
- 外国人の職場環境等に関する紛争
- 自転車事故に関する紛争
- 愛護動物に関する紛争
- 敷金返還等に関する紛争
この4つの分野は、行政書士がADR(裁判外紛争解決手続)の業務の中でも得意としています。
※詳しくは、所属する都道府県の行政書士会によって取り扱える分野は異なります(後述します)。
行政書士会連合会では、分野を絞って行政書士の活動を促進し、世間での浸透度を高める努力をしています。
現段階では、「ADRって何なの?」「ADRなんて聞いたことがない」という方は多いでしょう。
しかし、調停は裁判と比べて比較的スムーズに解決に至りやすいので、ADR(裁判外紛争解決手続)の知名度が増えれば行政書士の活躍範囲も広がります。
行政書士が行うADR(裁判外紛争解決手続)の業務の流れ
一定の行政書士会では、法務大臣の認証を受けることでADR(裁判外紛争解決手続)の業務ができます。
地域によって差がありますが、ここでは行政書士ADRセンター埼玉での具体的な手続きの流れを解説していますので要チェックです。
- 1週間前までに行政書士ADRセンター埼玉に電話で手続きの依頼の予約を行う
- 行政書士ADRセンター埼玉の電話番号は「048-833-1132」で、受付時間は月曜日から土曜日の9時~19時まで
- 調停の申込人が「調停申込書」、相手方が「調停依頼書」をそれぞれ提出する(公式サイトからテンプレートをダウンロード可能)
- 申込人への受理通知や相手方への通知が行われて、事前に手続きの説明を受ける
- 相手方が依頼書を提出した後にADR(裁判外紛争解決手続)が開始する
- 調停が成立した時は合意書が作成され、当事者の申し出で調停が取り下げられた時は終了する
参考:ミューチュアル社会保険労務士・行政書士事務所 http://www.mutual-office.jp/category/1994407.html
ADR(裁判外紛争解決手続)での問題解決を考えている方が周囲にいたら、行政書士ADRセンターを紹介しましょう。
依頼者側の立場に立ったADRのメリットと裁判のデメリット
依頼者側の立場に立って考えてみると、ADR(裁判外紛争解決手続)と裁判には大きな違いがあります。
ADR(裁判外紛争解決手続)にどのようなメリットがあるのか、裁判で問題を解決するに当たってどのようなデメリットがあるのか見ていきましょう。
<ADR(裁判外紛争解決手続)のメリット>
- 手続きの方法や解決の手段を中心に、当事者の意向に応じて柔軟に進めることができる
- 訴状など作成に手間を要する手続きは一切なく、簡単な申込書に記入するだけでスタートできる
- 専門的な知識と紛争解決に関する特別なトレーニングを持つ専門家が話し合いによるトラブル解決をサポートしてくれる
- 解決までの過程や結論は原則的に非公開で、当事者のプライバシーがしっかりと守られる
<裁判のデメリット>
- 問題や紛争が解決するまでに半年間から1年間以上と長い期間がかかる(毎回の期日ごとに弁護士との打ち合わせが必要)
- 様々な費用や実費が発生するため、経済的な負担が非常に大きい
- 手続きの進め方が複雑で難しい
- 経過や結果が公開されてしまう
問題の大きさによっては裁判が必要なケースもありますが、裁判所以外で揉め事を解決したいのであればADR(裁判外紛争解決手続)を選択肢に加えるべきですね。
費用の安さや簡単な手続きなど、行政書士に依頼するADR(裁判外紛争解決手続)には裁判にないメリットがあります。
行政書士会が開設するADRセンターと取り扱い分野
行政書士会は、都道府県にわかれて活動しているのが特徴です。
つまり、地域によって行政書士が行うADR(裁判外紛争解決手続)の業務内容も変わります。
行政書士のお住まいの所在地により、ADR(裁判外紛争解決手続)の活動で一定の制限を受けるわけです。
以下では、行政書士会が開設する代表的なADRセンターと取り扱い分野の情報についてまとめてみました。
センター名称 取り扱い分野 電話番号 行政書士会北海道ADRセンター 外国人の職場環境等に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 011-221-1221 行政書士ADRセンター宮城 自転車事故に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 022-797-9701 行政書士ADRセンター東京 外国人の職場環境等に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 03-5489-7441 行政書士ADRセンター神奈川 外国人の職場環境等に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 045-577-6322 行政書士ADRセンター埼玉 夫婦関係等に関する紛争・相続に関する紛争・自転車事故又は自動車の物損事故等に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 048-833-1132 長野県行政書士紛争解決センター 外国人の学校教育環境、労働職場環境等に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 026-224-1300 行政書士ADRセンター静岡 外国人を一方の当事者とする「身分関係に関する紛争」「職場環境等に関する紛争」「騒音やゴミ処理その他の日常生活に関する紛争」 050-3784-8210 行政書士ADRセンター大阪 外国人の職場環境等に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 06-6943-7511 行政書士ADRセンター兵庫 外国人の職場環境等に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物に関する紛争・敷金返還等に関する紛争 078-371-8823 行政書士ADRセンター福岡 外国人の労働環境・職場環境等に関する紛争・外国人の教育環境に関する紛争・自転車事故に関する紛争・愛護動物(ペットその他の動物)に関する紛争 092-641-2501 参考:日本行政書士会連合会の公式サイト https://www.gyosei.or.jp/activity/adr/
どの解決機関も、「ADRの手続きを非公開で進められる」「当事者の都合に合わせる柔軟性あり」など、徹底的にサポートしてくれます。
行政書士のADRの研修は実施されているの?
行政書士の資格を持つ方がADR(裁判外紛争解決手続)の業務をこなせるように、行政書士ADRセンターでは研修が実施されています。
研修の内容は行政書士ADRセンターで違いがありますが、大まかな内容は次の3つです。
- ADR概論:ADR法の概要や制度の背景、認可団体の必要条件など
- 法律編:紛争解決手続に必要な法律知識及び手続実施記録等作成の実務
- 手続管理編:調停人手続きを行う上での概要や注意点
行政書士会の会員であればADRの研修を受けられますので、更にステップアップしたい方は利用してみましょう。
まとめ
行政書士の資格を持っていると、官公署に提出する書類の作成業務に加えてADR(裁判外紛争解決手続)もできます。
21世紀に入ってからは、ADR(裁判外紛争解決手続)が盛んに実施されるようになりました。
行政書士は、主に「外国人の職場環境等に関する紛争」「自転車事故に関する紛争」「愛護動物に関する紛争」「敷金返還等に関する紛争」の業務ができます。
行政書士の新たな仕事のステージだと考えられていますので、これから試験を受験する予定の方は「書類作成以外にもできることはある!」と心得ておきましょう。
この記事の監修者 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 , 2級FP技能士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |