行政書士の廃業率は高い?低い?
行政書士の資格は独立開業も狙える人気の資格です。
合格率も10%程度と低い方ですので、「行政書士の資格を取れば、あとは大丈夫だろう(食っていけるだろう)」と、なんとなく考えている人も多いのではないでしょうか。
しかし、行政書士の資格を活かして開業しても廃業してしまう事務所もたくさんあるのが現状です。
「月刊 日本行政」(日本行政書士会連合発行)によると2012年の3月から2013年2月までの間に開業された行政書士の数は1,113人とのデータが出ています。
参考:https://www.gyosei.or.jp/about/publication/back-number.html
一方でこの1年間に廃業した行政書士の数は1,447人ですので、行政書士の資格を活かして食べていくのが難しい何よりの証拠ですね。
少し古いデータですので、今度は2017年の5月から2018年の5月までに行政書士として新規登録した人と登録を抹消した人の数を見ていきましょう。
2017年~2018年 | 新規登録者数 | 登録抹消者数 |
---|---|---|
5月 | 280名 | 118名 |
6月 | 244名 | 110名 |
7月 | 214名 | 89名 |
8月 | 207名 | 87名 |
9月 | 164名 | 192名 |
10月 | 182名 | 83名 |
11月 | 162名 | 97名 |
12月 | 149名 | 141名 |
2月 | 123名 | 123名 |
3月 | 168名 | 314名 |
4月 | 374名 | 107名 |
5月 | 371名 | 119名 |
これはあくまでも行政書士の1年間の登録者数の増減を示していますので、新たに開業した人がずっと残って業務を続けているというデータではありません。
正確な行政書士の廃業率のデータは出ていませんが、難しい国家資格を取得して事務所を開業しても、全員が利益を出し続けられるとは限らないのです。
ネットに蔓延る行政書士の廃業ブログ
「行政書士 廃業 ブログ」などのキーワードでGoogle検索すると、
- 行政書士を廃業しました
等と描かれてあるブログが沢山見つかります。
きちんとした統計がある訳ではないものの、そういったブログを書かれている方の多くは開業から数年以内(おそらく3年以内が多数)と見受けられます。
つまり、そのような方々は、開業して一度も軌道に乗ることなく廃業したのだと考えられます。
管理人個人的には、つい「本当にやるべきこと全てやって、それでも目が出なかったのだろうか」と考えてしまいます。
行政書士を開業して廃業する4つの原因…
行政書士を開業して廃業する原因は、次の4つに大きくわけられます。
これから行政書士の資格を目指して独立する予定の方は、なぜ廃業してしまうのかきちんと心得ておきましょう。
独立開業のスタートアップで準備ができていない
独立開業のスタートアップで準備不足の行政書士は、1年目や2年目の早い時期に廃業してしまいます。
行政書士として開業するに当たり、下記のようにやるべきことは皆さんが想像している以上に多いのです。
- 事務書の電話番号の取得
- 新規電話回線やFAX回線の設置
- 行政書士会への登録や支部会への挨拶
- 事務所ホームページの作成や更新
- SNSアカウント作成や書き込み
- 業務メニューの選定
- 宣伝や集客法(ネットやアナログ)の策定と実行
- 日々の経理処理の実施
- 税務署や県税事務所への届出
1日に10~12時間以上働いても、「時間が足りない…」と嘆く行政書士は少なくありません。
開業のために徹底した準備ができていない行政書士は、その分、失敗するリスクが高まることになります。
仕事を獲得できない(差別化や営業ができない)
行政書士が廃業するのは、単純に仕事を獲得できないのが大きな理由…。
行政書士はクライアントから依頼を受けて官公庁に提出する書類の作成や提出の代理の業務を行う形になりますので、仕事自体がなければ稼ぐことができません。
以下では、顧客を獲得できない行政書士に共通する特徴をいくつか挙げてみました。
- 「建設業許可」「遺言書作成」「会社設立手続」「ビザ申請」など広く浅く業務に取り組み、他者との差別化ができていない
- 顧客やお客さんのニーズをしっかりと把握していない
- WebやSNSなどに強くない、或いは、日々コンテンツの追加などを継続できない
- 同業者の会合・経営者の集まりなどに、こまめに足を運ばない
- 「電話に出ない」「メールの返信が遅い」など、基本的なビジネスマナーが身についていない
行政書士には独占業務がありますが、競合も多いのが現実です。
現在では、どんな難関資格を持っていても、それだけでは食っていけない時代。いわゆるマーケティングの能力も磨かなければなりません。
競合と差別化し、さらに自分から顧客を獲得する努力をしないと、仕事がなくなって廃業する原因になりますよ。
地道にコツコツと仕事をこなせていない
行政書士に限った話ではありませんが、地道にコツコツと仕事をこなせていないと廃業の大きな原因になります。
士業の仕事は大きくわけると次の2種類です。
- 一時的な発生で大きな利益を生む仕事
- 単価は低いが確実に受任して処理できる仕事
行政書士の試験に思い通りに合格し、「チマチマした仕事はやってられない」と考えている方はいませんか?
自分の実力以上の仕事で収益性の高い業務ばかりを追いかけていると、結果的に事業で失敗しやすくなります。
稼ぐために収益性を重視する気持ちはわかりますが、行政書士には地道な努力も必要です。
業務領域を絞り込みすぎている
他の行政書士と差別化を図るために、専門性をアピールするのは効果的です。
しかし、あまりにも業務領域を絞り込みすぎていると、次の2つの理由で主力の業務ができなくなります。
- 法改正で業務内容が大きく変わった
- 同じ領域で強力な同業者が出てきた
「主力の業務ができない」⇒「顧客を確保できない」⇒「利益を出せない」⇒「廃業に至る」という流れですね。
外的要因で廃業に追い込まれないためにも、行政書士はリスク分散を図らないといけません。
行政書士を廃業する際に必要な手続き!
行政書士を廃業(登録抹消)する際には、開業と同じように各種手続きが必要です。
まず最初に、行政書士の廃業では次の3つの書類を用意します。
行政書士の廃業で提出する書類 | |
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行政書士登録抹消届出書(廃業用) | 廃業される月の最終営業日までに提出しないと翌月扱いになる |
届出済証明書返還届 | 入管業務(申請取次業務)を行っている方は同証明書(届出済証明書)と一緒に返却する |
社労業務取扱証明書返却届出書 | 社労業務取扱証明書の発行を受けている方は同証明書と一緒に返却する |
参考:東京都行政書士会(https://www.tokyo-gyosei.or.jp/inside/peripheral.html)
廃業手続きで必要な書類は、こちらのページからダウンロードできます。
参考:https://www.tokyo-gyosei.or.jp/inside/pdf/peripheral.pdf
行政書士登録抹消届出書の提出に加えて、「行政書士登録証」「行政書士証票」「東京都行政書士会会員証」など返却が必要な物もありますので、廃業する際はあらかじめ確認しておきましょう。
「行政書士で開業してはいけない」ってホント!
ここまで読んで来られて、暗澹たる気持ちになった行政書士受験生も多いのではないでしょうか?
確かに「安心してください」とは言えないものの、ぶっちゃけ、「行政書士で食えるようになるかどうか」は本人次第。
- 「行政書士はやめとけ!」
などと言う外野の声に惑わされることはありません。あなたが本当に行政書士を天職と考えるのならば、そして死ぬ気で数年間頑張る覚悟があるのならば、道は開ける可能性は低くありません。
行政書士を廃業せずに成功するためのポイントを徹底解説!
行政書士の廃業件数がそれなりに多いと聞き、「将来性の低い資格なのでは…」と不安を抱えている方はいませんか?
確かに行政書士の資格を持っているだけで高く評価される時代ではありませんが、行政書士が取り扱える書類の数はどんどん増えており、現在では1万種類を超えています。
これだけ多種類の業務があるのに、「行政書士の仕事が不足している」ということはありません。
また、AIが様々な定型業務を奪う時代と言われていますが、人間による相談業務や細かいアドバイスは機械による代替が難しいため、行政書士の役割が消えることはありません。
どうすれば長く業務を続けられるのか、行政書士を廃業せずに成功するためのポイントを見ていきましょう。
実務経験を積むことから始める
行政書士の試験に合格した後、すぐに開業をしたいと考えている人も多いでしょう。
しかし、行政書士を中心に士業は能力主義の世界ですので、スキルや実力がなければ淘汰されます。
運良く案件を受注できたとしても、仕事の流れがわからなければ顧客により良いサービスは提供できません。
つまり、行政書士として廃業しないためには、実務経験を積んでから開業を検討すべきです。
ビジネスマナーや書類の書き方、顧客への対応など新米の行政書士が学ぶべき内容はたくさんあります。
行政書士事務所で働いたり先輩に仕事を教えてもらったりと、開業する前の準備を怠らないようにしてください。
資格の予備校やスクールでも、様々な実務講座を実施していますので、そちらを受講するのもおすすめです。
取り扱い業務を絞るかどうか決める
行政書士として開業するに当たり、まず最初に取り扱い業務を絞るのかどうか決めましょう。
行政書士の取り扱い業務を絞るのは、下記のようにメリットとデメリットの両方があります。
<メリット>
- 専門性をアピールして仕事を獲得しやすい
- 法改正や制度の変化についていきやすい
<デメリット>
- 見込みの顧客やクライアントが限定される
- 法改正で業務内容が変わると主力の業務に支障が出る
どちらにも良し悪しがあります。そのため、取り扱い業務をどの程度絞るべきか否か今後の方針を立てるのは重要ですね。
とにかく積極的に行動する
行政書士は事務所を開業して看板を掲げていても、自然と仕事が舞い込んでくるわけではありません。
仕事がなければ廃業に追い込まれるリスクが高まりますので、成功するにはとにかく積極的に行動すべきです。
具体的に開業した行政書士が何をすべきなのか、いくつかの目安を挙げてみました。
- 仕事を獲得するために様々な場所に出向いて営業活動をする
- 自分を知ってもらい紹介をもらうために人脈を形成する
- ホームページやSNS(Facebook、twitterなど)を駆使して集客を図る
行政書士としてのスキルがどれだけ高くても多くの人に知ってもらわなければ意味がありませんので、営業力や集客力を身につけるのがポイントです。
とにかく数年間は耐え続ける
しっかりと準備をして行政書士を開業しても、半年間くらいは仕事が舞い込んでこないケースもあります。
逆に言えば、独立開業の道を選ぶ場合、半年~1年程度収入ゼロでも生活できる貯蓄を準備しておくことが必要です。
仕事を確保できないと、「本当に大丈夫なの?」「この先どうなるのだろう?」と不安になりますが、とにかく数年間は耐え続けましょう(長期戦になる場合、副業やバイトも必要になるでしょう)。
数年間は頑張って事務所を開く覚悟がないと、諦めて廃業する形になってしまいます。
長く継続すれば業歴を積み重ねて人脈も広がっていきますので、モチベーションを維持する努力もしてみてください。
行政書士の廃業その後は?
万が一、どうしてもうまく行かない場合、「廃業」という選択肢を取る決心をしなければならないこともあるでしょう。
その場合、廃業のその後には、どのような道があるのでしょうか?
就職・転職をする
行政書士試験は難関ですし、資格取得者は「法律に詳しい」「許認可の手続きに詳しい」「行政提出書類作成の実務経験が豊富」と高い評価を得ることができます。
ただし、求人が多いかと言えば、それは別。もともと行政書士は独立系の資格ですし、社労士の「勤務社労士」のような登録区分はありません。一般企業に勤務する限り、資格は使えないのです。とは言っても、法律の専門家という能力を買われて、総務部や法務部への採用では有利でしょう。
また一般企業ではなく法務事務所や行政書士法人への就職を目指す方もいます。行政書士法人であれば、一般企業とは違い「使用人行政書士」という働き方ができます。ただ、そもそも行政書士法人や法務事務所の数は(一般企業に比べ)多くないので、求人そのものが多くありません。需要が少ない=給料が安い、ということでもありますので、あなたの希望に合う就職先は簡単に見つからないでしょう。
いったん廃業しても、再登録の道もある!
希望通りの就職・転職ができなくても気落ちすることはありません。
行政書士法人や法務事務所、場合によっては弁護士法人・司法書士法人でも構いませんので、何とか職を見つけ、たとえ給料が安くても
- 士業事務所における営業・マーケティングのノウハウ
を、お金(給料)を貰いながら学べる、と考えては如何でしょう。
廃業した行政書士のほとんどが、営業・マーケティングノウハウが不足しています。
数年間歯を食いしばって頑張り、営業ノウハウを身につければ、行政書士に再登録して再度一国一条の主、として成功できる可能性は高まります。
人生100年時代、おそらくあなたは再出発に遅いという年齢ではないでしょう。
※行政書士資格を活かした就職・転職について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
まとめ
以上のように、行政書士の廃業率や廃業する原因、開業で成功する上で押さえておきたいポイントについてまとめました。
行政書士の正確な廃業率は公表されていませんが、登録を抹消する方が多いのも事実です。
しかし、実務経験を積んだり顧客獲得の努力をしたりすれば、行政書士として開業して成功することはできますよ。
一度廃業しても、使用人行政書士となり営業ノウハウを学んで再登録し、成功したケースもあります。
行政書士の需要がなくなることはありませんので、自分で道を切り開く覚悟がある方は資格取得を目指してみてください。