この記事では、行政書士と弁理士のダブルライセンスについてお伝えします。
結論を先にいえば、行政書士と弁理士のダブルライセンスは有望な組み合わせです。
さらに、弁理士資格をお持ちの方は、試験を受けることなく(無試験で)行政書士登録ができますので、ダブルライセンスのハードルは非常に小さいですよね。
一方、先に行政書士を取得されて今後弁理士を目指す方は、3,000時間必要とも言われる弁理士試験を突破しなければならず、楽なハードルではありません。
とは言え、行政書士資格をお持ちの方には、弁理士試験の一部免除も受けられますので、他者との差別化のため、ダブルライセンスに向けて挑戦するのもアリですよ。
以下の記事では、両者のダブルライセンスについてくわしく説明していますので、関心のある方は、ぜひチェックしてください。
行政書士と弁理士の業務内容の違い
行政書士と弁理士は、両方とも独占業務ができる国家資格です。
行政書士は官公署に提出する書類の作成のプロなのに対して、弁理士は知的財産に関する専門家を指します。
どちらも顧客やクライアントからの依頼を受けて、書類や提出を代理で行う点では一緒ですね。
しかし、行政書士と弁理士は業務内容に大きな違いがありますので、それぞれ別の専門知識を有していないといけません。
まず最初に、行政書士と弁理士の業務内容から見ていきましょう。
- 行政書士:「官公署に提出する書類の作成と代理」「権利義務に関する書類の作成と代理」「事実証明に関する書類の作成と代理」
- 弁理士:「特許出願の支援」「実用新案登録出願の提出書類の作成代行」「意匠出願や商標出願の提出書類の作成代行」「知的財産権に関わるコンサルティング」など
官公署に提出する書類の作成や代理などの業務は、行政書士の資格を持つ方にのみ与えられた独占業務です。
行政書士法(第21条1項)では、以下に該当する者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられると規定されています。
行政書士となる資格を有しない者で、日本行政書士会連合会に対し、その資格につき虚偽の申請をして行政書士名簿に登録させたもの
弁理士にもこの独占業務はありますが、行政書士と比べてみるとより専門性の高い分野なのが特徴。以下は、弁理士の独占業務の説明です。
「権利の取得」「鑑定・判定・技術評価書」「外国における産業財産権の取得及び対応」などの産業財産権の取得
行政書士と比較すると、弁理士の方が独占業務の内容は差別化がしやすく、また資格者の人数自体も少ないため、行政書士よりは競合が少なくなっています。
行政書士と弁理士のダブルライセンスがおすすめの理由は?
「行政書士と弁理士は関連性のない資格では?」と思っている方はいませんか?
書類の作成の代理や相談を行う法律資格なのは一緒でも、それぞれの専門分野は異なります。
しかし、この2つの資格のダブルライセンスはキャリアアップや差別化に有効です。
以下では、行政書士と弁理士のダブルライセンスの有効な理由を説明していきます。
弁理士の資格を持っていると試験の受験なしで行政書士になれる
弁理士の資格を持っている方からすると、行政書士とのダブルライセンスは難しくありません。
それは弁理士の資格を取得しているだけで、試験を受験することなく行政書士になれるからです。
行政書士としての業務に携わるには、行政書士名簿に登録する必要があります。
弁理士の試験に合格した人は、弁理士と一緒に行政書士名簿にも登録可能です。
次のいずれかに該当する方は、行政書士になれると行政書士法第2条で定められています。
- 行政書士試験に合格した者
- 弁護士となる資格を有する者
- 弁理士となる資格を有する者
- 公認会計士となる資格を有する者
- 税理士となる資格を有する者
- 国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び特定独立行政法人
参考:行政書士となる資格(東京都行政書士会)https://www.tokyo-gyosei.or.jp/registration/qualification.html
弁理士の仕事をメインで行う予定であれば、行政書士名簿にも登録してダブルライセンスとして顧客にアピールしましょう。
あらゆる分野の行政手続きと携わることができる
行政書士と弁理士のダブルライセンスの親和性が高いのは、あらゆる分野の行政手続きと携わることができるからです。
弁理士の業務内容の特許や商標の出願手続きは行政手続きの分野に当てはまります。
更に行政書士の資格を持ってダブルライセンスになれば、会社設立手続きや店舗開業手続きも同時に請け負えるのです。
依頼者側の立場に立ってみると、「許認可手続きや会社設立手続き」と「商標や特許の出願」は本来、別々の人に頼まないといけません。
これはとても面倒なことですが、行政書士と弁理士のダブルライセンスの方には全てを一任できますよ。
顧客やクライアントを確保する上で負担を和らげるのは重要ですので、行政書士の資格を活かして業務を行いながら弁理士も取得して差別化を図るのが良いでしょう。
独立開業で役立つ
独立開業タイプの国家資格として、行政書士は人気です。
司法書士などの他の士業と比べて合格率が高く、最難関の資格ではありません。
しかし、行政書士の数は年々増えていますので、この資格だけでは他の人と差別化を図るのが難しくなります。
もし弁理士試験に合格してダブルライセンスになれば、あなた自身の差別化に繋がるため、独立後の受注獲得や業務遂行がスムーズに運びやすいはずです。
言うまでもなく、自分自身の武器が多い方がクライアントや顧客を掴みやすいですし、その延長に成功が見えてくるはずです。
※行政書士の独立開業については、下記の記事も参考にしてください。
行政書士と弁理士を試験の難易度で比較
行政書士と弁理士のどちらが試験の難易度が高いのか気になるところですよね。
もしダブルライセンスを目指すのであれば、「比較的簡単な方の資格を取得する」⇒「その後に難しい資格にチャレンジする」という流れで効率良くスキルアップが望めます。
どちらもプロフェッショナルの資格ですが、行政書士よりも弁理士の方が試験の難易度が高いのが特徴です。
以下では、行政書士試験と弁理士試験の合格率のデータをまとめてみました。
試験年度 | 行政書士の合格率 | 弁理士の合格率 |
---|---|---|
平成22年度 | 6.6% | 8.3% |
平成23年度 | 8.05% | 9.1% |
平成24年度 | 9.19% | 10.7% |
平成25年度 | 10.1% | 10.5% |
平成26年度 | 8.27% | 6.9% |
平成27年度 | 13.1% | 6.6% |
平成28年度 | 9.95% | 7.0% |
平成29年度 | 15.7% | 6.5% |
平成30年度 | 12.7% | 7.2% |
弁理士は行政書士の上位互換とも言える士業の国家資格です。
一昔前は弁理士よりも行政書士の方が合格率が低くなっています。
しかし、近年では行政書士の合格率が上がり、弁理士の合格率が著しく低くなりました。
行政書士は11%~13%前後で合格できるのに対して、弁理士の合格率は6%強で推移しており、難易度の高さが伺えます。
実は、弁理士試験では合格者の人数を絞るため、筆記試験の合格者に対して口頭試験を実施し、合格者数が一定数の範囲に収まるようコントロールしています。
もちろん、行政書士もサっと勉強して取得できるような資格ではありません。
専門的な知識をしっかりと兼ね備えている必要がありますので、行政書士と弁理士のダブルライセンスを目指すならそれなりに長い期間がかかると心得ておくべきです。
※行政書士の難易度については、下記の記事も参考にしてください。
行政書士と弁理士に合格するまでの勉強時間で比較
ここでは、行政書士と弁理士に合格するのに必要な勉強時間を比較してみましょう。
- 行政書士試験:合格までの勉強時間の目安は約500時間~800時間
- 弁理士試験:合格までの勉強時間の目安は約3,000時間
一概には言えないものの、弁理士試験には行政書士の4~5倍の時間が必要な計算です。
法律について知識が少ない初心者が独学で行政書士や弁理士の試験に挑むのは厳しいものがあるため、資格スクール通学や通信講座の受講などをおすすめします。
※行政書士の勉強時間については、以下の記事も参考にしてください。
行政書士と弁理士は同時受験で合格できる?
行政書士と弁理士の試験を同時受験し、合格できるのかどうか疑問を抱いている方はいませんか?
ダブルライセンスを目指すのであれば、なるべく早いタイミングで2つの資格を取得して日々の業務に活かしたいものです。
しかし、行政書士と弁理士に関しては同時受験の必要はありません。
最初に弁理士の試験勉強をして合格すると、その時点で行政書士名簿に登録できます。
つまり、行政書士と弁理士の試験勉強を平行して行わなくても良いわけです。
とは言え、上記でも解説したように弁理士の試験に合格するには平均して約3,000時間の勉強が必要なほど難しい資格ですので、モチベーションを維持して取り組む必要があります。
行政書士の資格を持っていると弁理士の試験の免除あり!
弁理士の資格を持っている方は、行政書士名簿にも登録できます。
ダブルライセンスになるのは簡単ですが、弁理士に合格するまでに時間がかかるのがデメリットです。
そこで、最初に行政書士の資格を取得して業務を行い、更にステップアップする目的で弁理士の資格を目指すのも良いでしょう。
弁理士の試験は、「短答式」「論文式」「口述式」の3ステップに大きくわけられます。
このうちの論文式試験の選択科目(法律 ※具体的には民法)に関しては、行政書士の資格をお持ちの方は免除対象です。
難関の「論文式」の一部が免除されますので、そのメリットは決して小さくありません。
試験の免除はダブルライセンスを目指す方にとって嬉しい制度ですが、行政書士の試験合格だけではなく行政書士として登録していることが条件ですので注意してください。
まとめ
行政書士と弁理士は、どちらも法律系・書類作成が中心と、相乗効果のある資格です。
ダブルライセンスになれば、クライアントに提供できるサービスの幅が広がり、独立開業の成功確率を高められます。
両者とも決して簡単な資格ではありませんが、独立開業を成功に導きたい方にとっては、ダブルライセンスを検討する価値は高いでしょう。
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ここまで、行政書士と弁理士のダブルライセンスについてお伝えしました。
行政書士のダブルライセンス全般については、下記記事を参考にしてください。
この記事の監修者 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 , 2級FP技能士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |