司法書士

司法書士試験で得意科目にしたい民法は、事例をイメージしながら法律の趣旨を理解する

司法書士試験の民法の勉強法

司法書士試験における「民法」は最重要科目として位置づけられます。
学習ボリュームも多く、じっくりと取り組まなければならない科目です。

合格者の正答率は9割と言われ、学習の完成度も高いものが求められます。

民法の特徴として、どちらかというと無味乾燥な手続法の科目に比べ、
「法律のリアリティを実感しながら学べる科目である」
といった面も持っています。

興味が持てれば得意科目にもできる、司法書士試験の民法への取り組み方についての情報をお届けします。

司法書士試験における民法の位置づけ

司法書士試験11科目280点満点のうち以下の科目が主要4科目と言われます。

試験科目
出題数
配点
民法
20問(択一)
60点
会社法・商法
9問(択一)
27点
不動産登記法
16問(択一)
48点
合計 83点
1問(記述)
35点
商業登記法
8問(択一)
24点
合計 59点
1問(記述)
35点

司法書士のメインの仕事に関わる不動産登記法と商業登記法は、記述式も出題されるため合計すると大きな配点を占めています。

それに対し、択一式では民法が20問60点と最も多く出題される科目です。

午前の部択一式の科目は憲法、民法、刑法、会社法・商法の4科目であり、これらは法律のルール満たす要件を定めたもので「実体法」と呼ばれます。

それに対し、午後の部の科目は手続法の科目であり、実体法の手続を具体的に規定するものです。

手続法である不動産登記法、民事訴訟法、民事執行法の実体法が民法であり、同様に商業登記法の実体法が会社法・商法という形で、午前・午後の科目は関連性をもっています。

実体法の理解がなければ、手続法の法律としての趣旨や効果について、正しく理解することができません。

司法書士試験における民法は単一科目の配点のみならず、不動産登記法をはじめとする他の手続法の理解にも大きく影響する、最重要な科目と位置づけられます。

受験予備校でも民法をカリキュラムの最初に持ってきているところがほとんどです。

そもそも民法とは

街の法律家と言われる司法書士が扱う法律行為は、一般の人が日常生活のなかで関わりのある権利・義務、家族の問題といったものであり、具体的には不動産や会社の登記、婚姻や相続などがあげられます。

法律の枠組みのなかでは、国と国民の関係を規定する憲法、刑法、民事訴訟法などの公法に対し、民法は国民相互間に生ずる権利・義務を定めた私法に含まれます。

売買契約や家族関係、消費貸借といった一般市民の日常生活のなかで頻繁に発生する法律行為についての規定であり、民法は私法の基本法と呼ばれたりします。

また、
企業活動に関わる法律として会社法・商法がありますが、保証や抵当などの金銭担保については商法にはほとんど規定がなく、民法とその特別法が適用されています。

民法は企業取引にも関係する重要な法律です。

民法の体系・構成

全体で1,050の条文から成る民法は5編から構成されています。

財産法
総則
通則、人、法人、物、法律行為、期間の計算、時効
物権
総則、占有権、所有権、用益物権(地上権、永小作権、地役権、入会権)、担保物権(留置権、先取特権、質権、抵当権)
債権
総則(債権総論)、契約(契約総論、契約各論)、法定債権関係(事務管理、不当利得、不法行為)
家族法
親族
総則、婚姻、親子、親権、後見、保佐及び補助、
相続
総則、相続人、相続の効力、相続の承認及び放棄、財産分離、相続人の不存在、遺言

民法は国民(私人)の財産について規定した法律と、家族の関係について規定した法律に分かれています。

民法制定の歴史的経緯から財産法と家族法は考え方が大きく異なっており、学説としては議論のあるところですが、民法を学ぶにあたりこの2つは別物という捉え方が必要です。

大まかには、財産法は私人間の権利・義務について金銭的解決が可能なもの、家族法は金銭的解決ができないものという認識がわかりやすいでしょう。

総則は民法全体に共通する基本ルールを規定しています。
財産法と家族法は別物と述べましたが、総則には、財産法のみに適用され、家族法には適用されない規定もあります。

内容としては物件、債権に関わるものが多くを占めることから財産法に分類されます。

物件は広く一般に主張できる権利、債権は一定の要件を有する対象に主張できる権利を定めています。

親族は家族や親族の関係性について規定したもの、相続は人が亡くなった場合の被相続人の権利義務の相続人への継承についての規定です。

民法の勉強法

20問出題される民法の内訳は、総則ー3問、物権ー9問、債権ー4問、親族ー2問、相続ー2問です。

1,000を超える条文から幅広く出題されます。

また、午後の部の手続法科目に関連していることを述べたとおり、民法の理解は他の科目の得点にも影響します。
正答率は高いものが求められ、20問中18問以上が得点目安と言われています。

ボリュームも多い民法の学習は、取りこぼしのないように繰り返して定着させることが必要です。

出題されるのは条文と判例の知識

択一式は問題文に対し、選択肢の正誤の組み合わせ5つから選ぶ形式で出題されます。

正誤の判断は条文と判例を覚えているかどうか、それを問われている内容とリンクさせることができるかがカギとなります。

最近の出題は問題文に「判例の趣旨に照らし正しいもの・誤ったものはどれか」といった判例の知識を問う出題が多いのが傾向です。
(平成30年度(2018年度)では18問/20問、令和元年度(2019年度)は14問/20問中)

令和元年度(2019年度)の問題から、条文の知識が問われる問題と判例の知識が問われる問題の具体例を挙げます。

<条文知識の問題の例 令和元年度(2019年度) 午前の部 第5問>

第5問
条件に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組み合わせは、後記1から5までのうち、どれか。
ア  ある事実が発生しないことを停止条件とする法律行為は、無効となる。
イ  不法な停止条件を付した法律行為は、無効となる。
ウ  解除条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合には、その法律行為は無効となる。
エ  単に債務者の意思のみの係る停止条件を付した法律行為は、無効となる。
オ  不能の解除条件を付した法律行為は、無条件となる。
1 アウ    2  アオ    3  イウ    4  イエ    5  エオ
正答 1
ア 消極条件(ある事実が発生しないこと)は停止条件、解除条件いずれも付すことができる。
→ 誤り
イ 第132条 不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。
→ 正しい
ウ 第131条2 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときにはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
→ 誤り
エ 第134条 停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。
→ 正しい
オ 第133条2 不能の解除条件を付した法律行為は、無条件とする。
→ 正しい

 

<判例知識の問題の例 令和元年度(2019年度) 午前の部 第8問>

第8問
物権変動に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組み合わせは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Aが、Bの所有する甲土地上の立木を購入し、立木に明認方法を施したが、その後、その明認方法が消失した場合において、Bが甲土地をCに売却したときは、Aは、Cに対して立木の所有権の取得を対抗することができない。
イ Aが、Bの所有する甲土地に抵当権の設定を受け、その旨の登記がされたが、Bの虚偽の申請によってその登記が不法に抹消され、その後、Bが甲土地をCに売却ときは、Aは、Cに対して抵当権の取得を対抗することができない。
ウ Aが、Bの所有する甲土地の占有を継続し、取得時効が完成した後、Bが死亡し、Bの相続人であるCが甲土地を単独で相続してその旨の登記がされたときは、Aは、取得時効を援用しても、Cに対して甲土地の所有権の取得を対抗することができない。
エ Aが、その所有する甲土地をBに売却したものの、その旨の登記がされない間に、Aが甲土地をCに売却してその旨の登記がされ、その後、CがAに甲土地を売却してその旨の登記がされたときは、Bは、Aに対して甲土地の所有権の取得を対抗することができない。
オ Aが、その所有する甲土地をBに売却してその旨の登記がされた後、BがCに甲土地を売却したが、その旨の登記がされない間に、AB間の甲土地の売買契約が契約の時に遡って合意解除されたときは、Cは、Aに対して甲土地の所有権の取得を対抗することができない。
1  アウ    2  アオ    3  イエ    4  イオ    5  ウエ
正答 2
ア 立木の明認方法を対抗要件とするには継続して存在していることが必要であり
明認方法が消滅していた場合は対抗力は喪失される。(最判36.5.4)
→ 正しい
イ 登記官の過誤、不法による登記の抹消、災害等による登記の消滅等の場合、対抗力は消滅しない。(大判昭10.4.4、大判大12.7.7、大判明31.5.20 最判昭34.7.24)
→ 誤り
ウ 時効取得者は時効完成後も未登記の場合、現れた第三者に対抗することができない。(最判昭42.7.21) 第三者が相続人である場合、相続人は対抗要件を必要としないため、時効取得者は未登記の相続人である第三者に対抗できる。
→ 誤り
エ 登記は第三者に対する対抗要件であり、当事者間では登記は不要。AとBは当事者であるため、Bは未登記でも所有権を対抗できる。
→ 誤り
オ Cは未登記であるため、Aに対して所有権取得を対抗できない。Cが登記をしていればAはCに対抗できない。(大判10.5.17)
→ 正しい

第5問は条文がそのまま出題されているもの、第8問は判例の知識が問われるものそれぞれの典型的な問題です。
これらの条文や判例を覚えることが学習の基本になります。

ただ、
このような問題は全体のなかでは少数です。
条文や判例をそのまま覚えているだけでは得点には結びつきません。
条文が想定している法律行為はどのようなものなのかを理解し、それをもとに、問題の選択肢に当てはまる条文や判例を瞬時に思い浮かべられるのが合格者のレベルです。

また、
第8問は、第177条(不動産に関する物件の変動の対抗要件)を論点とする、司法書士試験の民法における基本問題であり、毎年出題されています。この問題のように、重要度の高い、他の受験生も得点できるであろう論点に関する条文や判例を、効率的に覚えるための自分なりの勉強法を固めていくことが民法の攻略法です。

民法改正への対応

2020年度の司法書士試験では、2017年に改正され、2020年4月1日から施行される改正民法が出題に含まれることが予想されます。

2020年度が初回受検となる受験者は改正民法をもとに学習を進めることが必要ですし、2019年度以前からの多年度受験者は、それまでに学習した民法の知識をアップデートしなければなりません。

特に、旧法で学習を続けてきた多年度受験者は、改正点と旧法の知識が混乱してしまうことのないようなインプットの仕方を考えるべきです。

改正がこれまでの論点の結論に影響を与えるものとそうでないもの、また、出題範囲から外れるもの、新たに論点に加えられることが想定されるものなど、細かい対策が求められます。受験予備校のカリキュラムを活用することや、改正民法に対応した最新の市販教材を使った学習が不可欠です。

全体をひと通り学習することで全体像を把握する

これまで述べたとおり、民法は司法書士試験において最も重要な科目です。学習範囲も広いためテキストや過去問はボリュームもあり、全体に占める学習時間のウェイトも必然的に高くなります。

法律用語や条文の言い回しなど初学者にはとっつきにくい面があります。また、ひとつの論点の理解に他の論点の知識が前提となり、ひと通り学習を終えないと全体像が見えてこないといったことなど、いくつかのハードルがあります。

しかし、
このハードルを乗り越えれば、実体法である民法は不動産登記法など手続法と比べ具体的な事例がイメージしやすく、理解しながら学習を進めていくことができるようになります。

条文の言葉の論理で形作られるルールと結びつけることで、視界が少しづつクリアになっていきます。

司法書士試験における「民法」まとめ

司法書士試験における「民法」は最重要科目とも言えます。

法律のリアリティを楽しみながら学べ、興味が持てれば得意科目にもできるのが、民法の良い点でもあります。

ぜひ高得点獲得を目指して取り組んでみてください。