通関士とは?
通関士とは、輸出入の手続きを行うプロフェッショナルです。
貨物を輸出入するには、「税関に輸入申告をする」「検査を受ける」「関税を正しく計算して支払う」「輸出入の許可を受ける」といった手続きをしないといけません。
複雑な手続きが必要ですが、通関士が依頼人に替わって通関業務を行う形になりますね。
貨物の積み込みや保管のための申請の代行も通関士の仕事です。
通関士は国家資格、管轄は?
通関士は財務省が管轄している国家資格です。
貿易業界で役立つ資格は「貿易実務検定」「日商ビジネス英語検定」「国際航空貨物取扱士」などたくさんあります。
それらの中でも、通関士は唯一の国家資格なのが特徴的です。
通関士の勉強時間は400~500時間
通関士の試験に合格するまでの勉強時間の目安は、400時間~500時間です。
「貿易分野や法律に関する初学者」「法律や貿易に関する知識がある」など人によって違いますが、簡単に合格できる試験ではありません。
ここでは通関士試験が難化している理由や、試験科目別の勉強時間について詳しく解説していきます。
以前は350時間と言われていたが、近年は試験が難化している
通関士の試験に合格できるまでの勉強時間は、以前まで350時間程度と言われていました。
しかし、「実務試験が難しい」「法改正の度に対応が必要」など、近年では試験が難化していますよ。
そのため、通関士の勉強時間は400時間~500時間程度が理想です。
通関士の勉強時間は経験業務や前提知識の有無で大きく変わる!
通関士の勉強時間は、経験業務や前提知識の有無で大きな違いあり!
初学者は最低でも400時間の勉強時間が必要ですが、既に法律や貿易に関する知識を持っている方はもっと短い時間でも試験に合格できます。
「通関実務」が断然難しく、法律系2科目は暗記が重要
通関士の試験科目は「通関実務」「通関業法」「関税法等」の3つで、次の特徴があります。
- 通関実務は1問当たりの点数が高くて計算問題もあることから非常に難しい
- 通関業法と関税法等の法律系2科目は暗記が多い試験科目
それぞれの試験科目別で対策を行うのは、通関士の試験合格に欠かせません。
「通関実務」の勉強時間は全体の60~70%以上!
通関士の試験科目の通関実務は、配点が高い問題の占める割合が大きい科目です。
問題もかなり難しいので、通関実務の勉強時間は全体の60%~70%程度と考えておきましょう。
通関実務の概要
通関実務は、その名のとおり通関士としての実務に関する試験です。
通関業務の未経験者には最難関と言われていますので、通関実務をクリアできるのかどうかで通関士の合否が決まると言っても過言ではありません。
通関実務の配点と問題数
通関実務の配点は45点、問題数は17問です。
上記の項目でも解説した通り、1問当たりの配点の占める割合が最も大きくなっています。
「通関業法」の勉強時間は全体の10~20%
通関業法は法律系の暗記が多い試験科目で、勉強時間は全体の10%~20%程度!
出題形式も選択式および択一式ですので、しっかりと知識を頭に入れて確実に点数を確保するのがポイントですね。
テキストを繰り返し読み、通関業法に出てくる専門用語も覚えましょう。
通関業法の概要
通関業法とは、通関業務に関する手続き等の規定を定めて、適正化を実現するために法制化されたものです。
通関士として働くには、通関業法に関して適切な知識を持っておかないといけません。
通関業法の配点と問題数
通関業法の配点は45点、問題数は20問です。
通関業法の出題範囲は幅広いため、法律の名前と重要ポイントを地道に暗記しましょう。
「関税法等」の勉強時間は全体の20~30%
通関士の関税法等の勉強時間は、全体の20%~30%が目安になります。
通関業法と同じで、関税法等も法律系の暗記がメインです。
法律的な知識を問われる問題が多いため、テキストを繰り返し読んで暗記しないといけません。
関税法等の概要
通関士の試験科目の関税法等は、通関申告書類を作成する上で必要な知識が問われます。
この法律は通関士試験の学習の基本になりますので、じっくりと時間をかけて学習に取り組むのがポイントです。
関税法等の配点と問題数
関税法等の配点は60点、問題数は30問です。
3つの試験科目の中でも問題数が最も多く、科目全体の配点も高く設定されていますよ。
関税法等を疎かにすると他の分野での理解が難しくなりますので、「テキストを読む」⇒「過去問を解く」⇒「テキストに戻る」という勉強方法を繰り返しましょう。
通関士の仕事
通関士の試験合格を目指すに当たり、どのような仕事を行うのか把握しておかないといけません。
簡単に解説すると、通関士の仕事は税関を通るために必要な業務の代行ですね。
以下では通関士の業務内容、需要や将来性について詳しく解説していきます。
業務内容
通関士の主な業務内容は下記の通りです。
- 通関申告に係る書類を代行して作成
- 作成した申告書の申請を代行
- 関税計算書などの審査の実施
その他にも、申請が許可されなかった時の不服申し立て等も行います。
通関士の需要や将来性は?
これから通関士の資格を取得するに当たり、「需要や将来性はあるの?」と疑問を抱えている方はいませんか?
近年の傾向を踏まえると、次の3つの理由で通関士は需要があると判断できますよ。
- 現状よりも輸出入が減少する将来は考えにくい
- グローバル化が進んでいる現在は海外進出をする会社が増えていく
- AIやキャッシュレスで通関士の仕事が全てなくなるわけではない
通関士の仕事に対する需要は今後高まっていくと予想できますので、将来性のある仕事というわけです。
通関士の設置義務とは?
通関業者は、適切な通関業務の実施のため、営業所単位で業務のボリューム等に応じ、必要な人数の通関士を配置することが義務付けられています。
これを通関士の設置義務と言い、通関士の試験において、実際に問われることがあります。
通関士は独立開業系の資格ではなく、通関業者に勤務が前提の資格
通関士は独立開業系の資格ではなく、通関業者に勤務が前提の資格です。
正式に「通関士」と名乗るためには、特定の通関業者に所属して財務大臣の確認を受けることが前提です。
ただ、実際に「通関士」と名乗れなくても、通関士試験合格者は様々な企業・組織で重宝され、働いています。
以下では、通関士がどのような企業・組織で働いているのかいくつか挙げてみました。
- 通関業者:運送会社や倉庫会社など輸出入の代行を行う業者
- メーカー:自社商品の輸出や商品に使う材料を海外から輸入する会社
- 商社:海外との取引を日常的に行っている商社
- 百貨店:海外での買い付けや商品の輸入の仕事を行う百貨店
近年ではインターネットを使った販売業者やコンサルタント業務を行う通関士試験合格者も増えています。
通関士の難易度は?
通関士の試験の難易度はかなり高めです。
通関士の難易度がどのくらいなのか、「勉強時間」「合格率」「偏差値」の3つの項目で解説していきます。
勉強時間から見た難易度
司法書士に合格するまでの勉強時間は3,000時間以上、社会保険労務士は1,000時間以上です。
これらの資格と比較してみると、通関士の難易度はそこまで高くありません。
それでも、400時間~500時間の勉強時間が必要ですので、簡単に受かる試験ではないと心得ておくべきですよ。
合格率から見た難易度
通関士の合格率は10%~20%程度で、平均すると15.4%です。
国家資格の中には合格率が10%を切る試験もありますので、「通関士を目指しても試験に受からない…」と諦める必要はありません。
とは言え、通関士の試験は年々難化していますので注意が必要です。
偏差値から見た難易度
以下では、通関士と他の国家資格を偏差値別でランキングしてみました。
偏差値 | 国家資格 |
---|---|
75 | 国家公務員一種 |
72 | 司法書士 |
70 | 公認会計士 |
68 | 税理士や不動産鑑定士 |
66 | 中小企業診断士や英検1級 |
65 | FP技能士一級 |
62 | 社会保険労務士や行政書士 |
58 | 通関士 |
57 | 宅地建物取引主任者や二級建築士 |
55 | FP技能士二級 |
通関士の偏差値はそこまで高くないものの、難易度が低い試験ではありません。
通関士に合格するための勉強方法
どうすれば通関士の試験に合格できるのか、おすすめの勉強方法について解説していきます。
最初に学習計画を作成し、全体像を押さえる
通関士の試験を受験するに当たり、早めの準備で余裕を持った学習計画を立てるのが大事です。
最初に学習計画を作成して全体像を押さえると、試験本番までの道筋が見えてきますよ。
スケジュールは途中で崩れることがありますので、その都度軌道修正しましょう。
合格点を超えることを重視、完璧は目指さない
通関士の試験では、満点を取らなくても大丈夫です。
完璧を目指そうとすると長い時間がかかりますので、合格点を超えることを重視してください。
通関実務は最初から最後まで勉強、量をこなす
通関士の試験科目の通関実務は難化していますので、最初から最後まで勉強しないといけません。
とにかく量をこなすことにより、合格点の60%以上をクリアできます。
過去問を繰り返す
全ての資格試験に当てはまりますが、通関士も過去問を繰り返すのが重要なポイント!
テキストを読み込んで知識をインプットした後に、過去問を解いてアウトプットしましょう。
反復して勉強することにより、試験の傾向や頻出範囲を掴めます。
法改正に注意
通関士試験の通関業法や関税法等では、法改正が行われると必ずその部分が問われます。
つまり、その年の法改正は忘れずに押さえておかないといけません。
法改正には常にアンテナを張っておく必要がありますので、最新版のテキストで対策すべきですね。
まとめ
以上のように、通関士の試験の合格に必要な勉強時間は400時間~500時間です。
「最初に学習計画を作成する」「合格点を超えることを目指す」「テキストと過去問を使用する」「法改正に注意する」といった点を押さえて勉強すれば、合格の可能性はアップします。
難易度の高い試験ですが、需要や将来性はありますので通関士の試験合格を目指してみてください。
【参考】通関士の試験内容
最後に、通関士の試験の形式や受験資格など、試験内容について解説していきます。
これから通関士の資格取得を目指す予定の方は、参考程度に頭に入れておきましょう。
試験の形式
通関士の試験の形式はマークシート方式で、回答方法は「五肢択一」「語群選択」「計算問題」の3種類です。
通関士の試験には計算問題がありますので、携帯用の小型電子計算機(電卓)の持参が許されています。
合格基準~科目ごとに足切りがある
通関士の試験の合格基準は、満点の60%以上が合格ラインです。
しかし、試験全体で60%以上ではなく、科目ごとに足切りがある点に注意…。
「通関実務」「通関業法」「関税法等」の試験科目において、全てで60%以上の得点を取らないといけません。
試験科目と出題内容
通関士の試験科目や出題内容は下記の通りです。
- 通関実務:通関書類の作成要領その他通関手続の実務
- 通関業法:通関業法の目的や通関業者の義務に関する問題
- 関税法等:関税定率法その他関税に関する法律及び外国為替及び外国貿易法
通関士の試験に合格するには、足切りを踏まえて苦手科目を作らないようにしましょう。
受験資格
通関士の試験には受験資格がありません。
「年齢」「性別」「学歴」の制限は一切なく、受験料さえ支払えば誰でも受験できますよ。
科目免除
通関士の試験では、次の条件に当てはまる人は一部の科目が免除されます。
- 通関業者の通関業務又は官庁における関税その他通関に関する事務に従事した期間が通算で15年以上
- 通関業者の通関業務又は官庁における通関事務に従事した期間が通算で5年以上
①の条件に当てはまると2科目免除で通関業法のみでOK、②の条件に当てはまる人は「通関書類の作成要領その他通関手続の実務」が免除です。
試験日程
通関士の試験日程は、例年10月の第一日曜日です。
2021年(令和3年)の通関士の試験日も、2021年10月3日(日)でした。
試験会場
通関士の試験会場は、下記の通り都道府県で違いがあります。
試験地 | 試験会場の名称 | 所在地 |
---|---|---|
北海道 | sapporo55ビル5階 | 北海道札幌市中央区北5条西5丁目7番地 |
新潟県 | 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター | 新潟県新潟市中央区万代島6番1号 |
東京都 | 東京大学 教養学部 | 東京都目黒区駒場3-8-1 |
宮城県 | 仙台医療福祉専門学校 中央校舎本館 | 宮城県仙台市青葉区中央4-7-20 |
神奈川県 | 明治学院大学 横浜キャンパス | 神奈川県横浜市戸塚区上倉田町1518 |
静岡県 | 清水マリンターミナル | 静岡県静岡市清水区日の出町10-80 |
愛知県 | 名古屋芸術大学 東キャンパス | 愛知県北名古屋市熊之庄古井281番地 |
大阪府 | 大阪アカデミア | 大阪府大阪市住之江区南港北1-3-5 |
兵庫県 | 神戸ファッションマート | 兵庫県神戸市東灘区向洋町中6-9 |
広島県 | 広島市中小企業会館 | 広島県広島市西区商工センター1-14-1 |
福岡県 | 南近代ビル | 福岡県福岡市博多区博多駅南4-2-10 |
熊本県 | 熊本地方合同庁舎 | 熊本県熊本市西区春日2丁目10番1号 |
沖縄県 | 那覇第2地方合同庁舎 那覇港湾合同庁舎 |
沖縄県那覇市おもろまち2丁目1番1号 沖縄県那覇市港町2丁目11番1号 |
試験時間は9時30分からですので、早めに現地に到着しましょう。
受験料
通関士の試験の受験料は3,000円です。
受験料に加えて、「受験願書」「受験票」「通関士試験の一部科目免除通知書」などの書類が必要になります。
<通関士 記事一覧>
この記事の監修者 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 , 2級FP技能士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |