行政書士と中小企業診断士の業務の違い
行政書士と中小企業診断士は、両方とも中小企業の事業者を主な対象とした国家資格です。
行政書士は官公署に提出する許認可等の申請書類を作成するのがメインの仕事なのに対して、中小企業診断士は中小企業の経営課題に関する診断や助言を行います。
どちらもビジネスマンや開業を検討している方から人気の資格ですよ。
まず最初に、行政書士と中小企業診断士の業務の違いから見ていきましょう。
行政書士の仕事
行政書士は街の法律家と呼ばれる専門家で、日常生活や事業立ち上げと深く関わる業務を行っています。
以下では、行政書士の代表的な仕事内容とまとめてみました。
行政書士の仕事内容 | |
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書類作成業務 | 「官公署に提出する書類の作成」「権利義務又は事実証明に関する書類の作成」など |
手続代理業務 | 官公署に提出する書類を官公署に提出する手続きの代理や許認可等に関する審査請求など |
相談業務 | 行政書士が取り扱うことができる10,000種類以上の書類の作成に関する相談業務 |
官公署に提出する書類の作成や権利義務に関する書類の作成は、行政書士しか行うことができない独占業務ですね。
書類の作成がメインの仕事ですが、中小企業診断士と同様にコンサルティング業務を行うこともあります。
※行政書士の仕事内容について詳しくは、下記の記事もチェックしてみてください。
中小企業診断士の仕事
中小企業診断士の仕事内容は主に次の3つです。
中小企業診断士の仕事内容 | |
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公的業務 | 中小企業経営者の相談を受ける支援部門での窓口業務、起業や事業経営に関連するセミナー講師 |
民間業務 | マーケティングや事業計画の策定支援、資金調達(融資、補助金採択)のサポートなど、中小企業に対してのコンサルティング業務 |
研修 | クリティカルシンキング(ロジカルシンキング)や問題解決、リーダーシップやマネジメント、組織活性化などの企業研修 |
中小企業診断士の仕事というと、「中小企業の経営状況の分析や改善策の提案を中心に、コンサルティング業務がメインなのでは?」と思う方もいるかも知れません。
しかし、ひとことで「経営」といっても、その領域は広範です。そのため、一人ひとりの中小企業診断士の活動内容は千差万別と言えるでしょう。
行政書士と中小企業診断士の仕事はどう違う?
行政書士は官公署へ提出する書類作成および提出代理など、法律家としての側面が強い仕事がメインです。
一方で中小企業診断士は、主に中小企業への経営コンサルティング業務を実施するという違いがあります。
とは言え、コンサルティングや相談業務を中心に行う行政書士もいますので、中小企業診断士と何もかもが違うわけではありません。
行政書士と中小企業診断士の試験内容の違い
行政書士と中小企業診断士は、どちらも試験に合格して資格を取得する形になります。
行政書士と中小企業診断士の試験内容の違いは下記の通りです。
試験内容の違い | |
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行政書士 | 「民法」「商法」「憲法」「行政法」「基礎法学」 |
中小企業診断士 | 「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・中小企業政策」 |
試験内容を見比べてみると、この2つの資格は重複する部分がありません。
出題範囲の広さでは、行政書士よりも中小企業診断士の方が上です。
※行政書士の試験内容について詳しくは、下記の記事をチェックしてみてください。
中小企業診断士試験と行政書士試験の難易度の比較
国家資格を取得するに当たり、難易度が高いのかどうかは気になるポイントですよね。
あまりにも難易度の高い資格は、「どうせ自分には無理でしょ…」とやる気がなくなることも…。
ここでは、中小企業診断士試験と行政書士試験の難易度を合格率や勉強時間の観点で比較してみました。
行政書士と中小企業診断士の難易度を合格率から比較
まず最初に、行政書士試験の合格率から見ていきます。
試験年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
平成28年度 | 41,053名 | 4,084名 | 10.0% |
平成29年度 | 40,449名 | 6,360名 | 15.7% |
平成30年度 | 39,105名 | 4,968名 | 12.7% |
令和1年度 | 39,821名 | 4,571名 | 11.5% |
令和2年度 | 41,681名 | 4,470名 | 10.7% |
年度で変わりますが、行政書士試験の合格率は例年10%~15%で推移している特徴あり!
一方で中小企業診断士の1次試験と2次試験の合格率は下記の通りです。
1次試験の年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
平成28年度 | 13,605名 | 2,404名 | 17.7% |
平成29年度 | 14,343名 | 3,136名 | 21.7% |
平成30年度 | 13,773名 | 3,236名 | 23.5% |
令和元年度 | 14,691名 | 4,444名 | 30.2% |
令和2年度 | 13,622名 | 5,005名 | 42.5% |
2次試験の年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
平成28年度 | 4,394名 | 842名 | 19.2% |
平成29年度 | 4,279名 | 828名 | 19.4% |
平成30年度 | 4,812名 | 905名 | 18.8% |
令和元年度 | 5,954名 | 1,088名 | 18.3% |
令和2年度 | 6,388名 | 1,175名 | 18.4% |
1次試験の合格率は20%~30%、2次試験の合格率は約20%ですので、中小企業診断士の試験全体では約4%~6%程度になります。
つまり、行政書士試験よりも中小企業診断士試験の方が遥かに合格率が低く、難易度が高いことがおわかり頂けるでしょう。
※行政書士の難易度について詳しくは、下記の記事をチェックしてみてください。
行政書士と中小企業診断士の難易度を勉強時間(目安)から比較
行政書士に合格する勉強時間の目安は約500時間~800時間なのに対して、中小企業診断士は約1,000時間~1,200時間です。
独学なのか通信講座を利用するのかで異なるものの、勉強時間の長さからも中小企業診断士試験の方が難易度が高いと判断できます。
行政書士試験よりも範囲が広いため、中小企業診断士に合格するまでには時間がかかるわけです。
※行政書士の勉強時間について詳しくは、下記の記事をチェックしてみてください。
行政書士と中小企業診断士の年収はどっちが高い?
行政書士の平均年収は、500万円~600万円です。
一方で中小企業診断士の平均年収は、500万円~800万円と少し高くなりますね。
行政書士より中小企業診断士の年収が高いのは、企業や事務所に所属して働いている人が多いのが理由!
企業勤めだと最低年収は保証されますので、独立開業している人と比較すると収入が安定する傾向があります。
※行政書士の年収について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
行政書士と中小企業診断士のメリットは?
行政書士と中小企業診断士にはそれぞれ異なるメリットがあります。
どちらの資格を目指そうか迷っている方は参考にしてみてください。
行政書士になるメリット
行政書士になるメリットは次の4つです。
- 民法や商法、会社法など法律系の知識を身に付けられる
- 就職や転職で多少なりともアドバンテージになる
- 勉強時間の目安が短いので働きながらでも取得できる
- 将来的に事務所を持って独立開業する選択肢ができる
行政書士の資格を持っていると、総務部や法務部への転職で有利になります。
資格保有者しかできない独占業務もありますので、独立開業して仕事がないという状況には陥りにくいでしょう。
中小企業診断士になるメリット
行政書士とは違い、中小企業診断士になるメリットは次の4つです。
- 経営全般の知識の習得で広い視点が身について仕事力が上がる
- 経営に関する一定の知識があると評価されて転職で有利に働く
- 得意分野を教え合う勉強会や交流会への参加で人脈を広げられる
- 将来的に独立開業すれば年収が大幅にアップしやすくなる
転職や独立開業で役立つ資格という点では、中小企業診断士も同じだと言えます。
将来性のあるのはどっち?
行政書士と中小企業診断士のどっちが将来性があるのか気になるところですよね。
行政書士には資格保有者しかできない独占業務があります。上記でも少し触れましたが、扱える書類が10,000種類以上ありますので、行政書士の仕事が無くなってしまうことは考えにくいですよね。
ただ、単なる書類作成だけでは将来性は小さいとも言えます。というのも、「行政書士の仕事のうち、書類作成を中心に90%以上はAIに置き換えられてしまう」という報道もありますから、全く安泰という訳にはいきません。
今後は経営者と対話してサポートできるコンサルティング的な業務が、行政書士にとっても主流となるのではないでしょうか。
一方で中小企業診断士のメインであるコンサルティング業務は、AIやITの進歩で自動化されにくいのが特徴的!
他の士業と比較すると、AIによって奪われる(代替される)仕事の割合は僅かであるため、中小企業診断士は特に将来性のある資格だと言えるでしょう。
※行政書士の将来性について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
独立開業しやすいのはどっち?
中小企業診断士の資格を取得し、独立開業してコンサルティング業務を行う方はいます。
しかし、中小企業診断士は他の士業と違って独占業務がありません。
そのため、独占業務で差別化できる行政書士の方が独立開業のハードルは低いと判断できます。
※行政書士の独立・開業について詳しくは、下記の記事も参考にしてみてください。
転職・就職しやすいのはどっち?
転職や就職のしやすさで比較してみると、行政書士よりも中小企業診断士に軍配が上がります。
行政書士は独立前提の資格ですので、試験に合格しただけでは企業から評価されないことも…。
中小企業診断士に関しても、「資格を持っているだけで引く手あまた」というわけではありません。
しかし、試験に合格すれば経済学や経営理論の知識を持っている証明になりますので、転職活動や就職活動で他者と差別化を図れますよ。
※行政書士の転職・就職について詳しくは、下記の記事を参考にしてみてください。
行政書士と中小企業診断士、両方の資格を活かすには?
行政書士と中小企業診断士の両方の資格を活かすには、ダブルライセンスがおすすめ!
ダブルライセンスとは、異なった複数の資格を有することですね。
キャリアアップや転職を有利に進めるため、ダブルライセンスを目指す方は増えています。
中小企業診断士と行政書士のダブルライセンスは相乗効果が高い
中小企業診断士と行政書士は相性の良い資格で、ダブルライセンスの相乗効果は高いですよ。
難易度の高い2つの資格を取得することにより、行政書士としての申請書類等の作成や申請代行に加え、中小企業診断士としての経営コンサルティングまで請け負うことができます。
中小企業診断士として働くには、1つでも多くの企業に携わらないといけません。
独占業務を持っている行政書士なら許認可申請を中心に多くの企業と関わるチャンスが増えますので、そこから派生して中小企業診断士のコンサルティング業務に繋がるわけです。
また、法律に関する知識が深まることにより、法務の視点を踏まえて経営に関するアドバイスができるようになります。
得意な分野が増えれば新規顧客を獲得しやすくなりますので、中小企業診断士と行政書士のダブルライセンスはおすすめです。
行政書士と中小企業診断士、まずはどちらを目指すべきか?
これからダブルライセンスを目指す方は、最初に行政書士の資格を取得してから中小企業診断士の勉強に取り掛かりましょう。
行政書士から目指した方が良いのは、試験の難易度が低いからです。
「合格率」「試験範囲」「科目数」で比較してみると、中小企業診断士の方がハードルが高くなっています。
行政書士と中小企業診断士は試験内容が異なりますので、2つの資格勉強を並行するのはおすすめできません。
まとめ
以上のように、行政書士と中小企業診断士は「仕事内容」「難易度」「独立開業のしやすさ」「転職のしやすさ」で違いがあります。
しかし、両方ともキャリアアップや転職の武器になる点では同じです。
2つの資格を活かして業務をワンストップで行うために、行政書士と中小企業診断士のダブルライセンスを目指すのも良いでしょう。
この記事の監修者 | |
氏名 | 西俊明 |
保有資格 | 中小企業診断士 , 宅地建物取引士 , 2級FP技能士 |
所属 | 合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション |