行政書士試験

行政手続法を分かりやすく解説!出題傾向と勉強方法は?【行政法】

行政手続法の出題傾向

今回は、行政手続法のポイントや出題傾向について、わかりやすくお伝えします。

行政手続法は、「行政法」のなかの「行政作用法」に属する法令です。

すでに行政法を勉強されている方はご存知だと思いますが、そもそも「行政法」という名称の法令はありません。

行政法とは、行政(国・地方自治体の官公庁など)の活動に関する様々な法令の総称のことで、その数は1,000種類以上あります。

そのため、全体像を掴みにくいのが行政法の特徴でもあるのですが、そうした行政法のなかでも、行政書士試験で頻出の法規の1つが行政手続法です。

この記事では、

  • 行政法のなかにおける行政手続法の位置づけ
  • 行政手続法の目的や内容
  • 行政手続法の出題傾向

などをご説明することで、行政手続法のポイントを掴むことができます。

わかりやすく説明していますので、これから行政法の勉強を始める方・勉強を始めたばかりの方は、ぜひ参考にしてみてください。

行政法の構成(全体像)

前述のとおり、「行政法」という名の法律はありません。六法全書にも掲載されていないのです。

ご存知のとおり、我が国は「司法」「立法」「行政」と、三権分立が定められている国です。

「行政」とは、一般的な考え方によれば、「司法と立法以外のもの」ということになります(この考え方を、控除説といいます)。

つまり、司法と立法に関する法律以外は、ほとんどが行政法に分類されるのです。

行政法の数は1,000以上もあると説明しましたが、その理由が分かったと思います。

そんな行政法ですが、以下のとおり、大きく3つに類型化できます。

行政組織法 行政(国や地方公共団体)の内部組織に関する法律
行政作用法 行政が行う活動についての法律
行政救済法 行政の活動の結果、被害や損害を受けた国民などを救済する法律

以上の3つの類型に入る個別法規のなかで、行政書士試験の「行政法」の出題の中心となる法律は以下のとおりです。

行政組織法 地方自治法
行政作用法 行政手続法
行政救済法 行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法

これら5つの個別法規に「行政法の総論」を加えた6つの分野から、行政法の試験は出題されます。

行政手続法の目的

行政手続法の目的は、法1条に記載されています。

第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

※赤字は管理人によるものです。

以上のように、

  • 行政運営の公正の確保
  • 透明性の向上

をはかり、結果として、国民の権利利益の保護を実現することを目的としています。

行政手続法は、行政救済法と何が違う?

国民の権利利益を保護する法令としては、行政救済法(行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法)もありますが、これらの法令と行政手続法はどのように違うのでしょうか?

まず行政救済法ですが、これらは

「行政の活動により国民が不利益を被るなど、問題が発生した場合に、国民が訴訟を起こしたり、国家に賠償を求めたりする手続きについて規定した法律」

つまり、問題が起こった後に、国民の権利を守る法令なのです。

これに対し、行政手続法は「問題が起きないように、事前に行政の活動が適切に行われるように規定する」、つまり「予防的措置」の意味合いがあるわけです。

当然ですが、国民の権利利益が侵されるようなことはあってはならない訳で、その予防措置として作用する行政手続法の意義は大きいといえるでしょう。

行政手続法の内容

行政手続法は、一定の行政作用(行政の活動)を行うために必要な事前の手続きを定めた一般法です。

ここで重要なのは、「すべての行政作用」に対する事前手続きではなくて、一部の行政作用に対する事前手続きのみを定めている点です。

それでは、どのような行政作用に対する事前手続きを定めているのか、といえば、以下の5つになります。

  • 申請に対する処分
  • 不利益処分
  • 行政指導
  • 届出
  • 命令等の制定

それぞれを個別に見て行きましょう。

申請に対する処分

申請とは、法2条3号によると、以下のとおりです。

法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

ざっくりと言えば、「行政庁がYES/NOをハッキリさせなければならない許認可等」が申請にあたるわけです。

この申請に対して、行政手続法では、国民の権利利益を守るために、次のような内容を規定しています。

  • 申請を受理し、不備がなければ審査しなければならない
  • 申請に不備があれば、補正を求めるか拒否をするなど、態度を明らかにしなければならない
  • 審査にかかる標準的な期間を設定するように努めなければならない
  • 審査基準を定めなければならない
  • 申請を拒否する場合は理由を提示しなければならない
  • 審査の状況に関する情報・申請に必要な情報を提供しなければならない
  • 利害関係者がいる場合などに公聴会の開催に努めなければならない など

 

不利益処分

不利益処分とは、法2条4号によると、以下のとおりです。

行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分
ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの

不利益処分の具体例としては、「いったん出した営業許可を取り消す」などが挙げられます。

不利的処分に対して、行政手続法では、国民の権利利益を守るために、次のような内容を規定しています。

  • 原則として理由の提示をしなければならない
  • 処分基準を定めるよう努めなければならない
  • 意見陳述手続(聴聞または弁明の機会の付与)

 

行政指導

行政指導とは、法2条6号によると、以下のとおりです。

行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

行政指導に対して、行政手続法では、国民の権利利益を守るために、次のような内容を規定しています。

  • 行政指導は任意の協力を求めるもののため、法的根拠は不要。しかし、その行政機関の所掌事務の範囲でなければ指導をすることはできない
  • 「申請の取り下げや内容の変更を求める行政指導」「許認可などの権限に対する行政指導」など、強制の意味合いが強くなる行政指導は行ってはならない
  • 原則として、行政指導は書面でなされなければならない
  • 多数の者に同じ内容の行政指導をする場合、公平性の観点から行政指導指針を策定・公表しなければならない など

 

届出

届出とは、行政庁に一定事項を通知する行為のことです。行政庁からの諾否の応答が必要ない点が、申請とは異なります。

届出については、形式的な要件を満たしていれば、届出先である行政庁に到達した段階で、届出の効力が発生するとされています。

命令等の制定

命令等とは、法2条8号によると、以下のとおりです。

内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則
ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)

命令等の制定に対して、行政手続法では、国民の権利利益を守るために、次のような内容を規定しています。

  • 命令等は法律に基づき、また、法令の主旨に適合するようにしなければならない
  • 命令等を制定する行政機関は、意見公募手続・提出意見の考慮・結果の公示などを実施しなければならない

 

行政手続法の出題傾向

行政手続法は、なんといっても条文の知識を問う問題が大部分を占めます。

特に「総則」「申請に対する処分」「不利益処分」からの出題が頻出です。一方、行政事件訴訟法や国家賠償法と異なり、判例からの出題は少ないです。

どれだけ条文に当たったかで勝負が分かれる、ともいわれます。まずはテキストをざっと読み、過去問を解きながら、折に触れ条文を確認するようにしましょう。

択一式の出題数ですが、行政法全体で19問のうち、行政手続法で3問程度出題されます。また、過去には記述式で出題されたこともあります(記述式は行政法全体で1問)。このことからも、行政法のなかでも重点分野といえるでしょう。

また、行政法は過去問の焼き直しが多いのも特徴の一つです。そうした意味でも、できるだけ多く(さらに何度も)過去問対策を徹底すべきでしょう。

行政法 過去問の事例(平成21年度 問題12)

行政手続法1条が定める同法の目的に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

  1. 行政手続法は、政府の諸活動について国民に説明する責務が全うされるようにすることを主な目的とする。
  2. 行政手続法は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
  3. 行政手続法は、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
  4. 行政手続法は、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。
  5. 行政手続法は、国の行政事務の能率的な遂行のために必要な組織を整えることによって、公務の民主的かつ能率的な運営を保障することを目的とする。

こちら、解答は「2」となります。前述の法1条(行政手続法の目的条文)がそのまま出題されていることが分かります。

 

行政書士試験の対策については、以下の記事を参考にしてください。